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図表でみる世界の外為レート-世界各地の通貨をランキングすると、日本円はプラザ合意を上回るほどの割安で、人民元はさらに安い

2025年05月23日

(三尾 幸吉郎)

1――現在の日本円はプラザ合意を上回るほどの割安

現在の日本円は割高なのかそれとも割安なのか。もし日本円が割高だとすれば、日本人は輸入品を安いと感じ、訪日観光客は日本の物価は高いと思うことだろう。一方、日本円が割安だとすれば、日本人は輸入品を高いと感じ、訪日観光客は日本の物価は安いと思うだろう。ここもとの状況を鑑みると、日本人は輸入依存度の高い食品やエネルギーなどを高いと感じており、訪日観光客は2024年に3,687万人と過去最高を更新するなど増加傾向を示しており、日本円が割安なのは間違いなさそうだ。
こうした割高・割安度を定量的に計測したのが図表-1である。ここで判断基準は、同じ商品群が異なる国においていくらで取引されているのかを比べて算出する購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)を採用した1。図表-1では、そのPPPをオレンジ色の線で示し、市場における外為レート(以下「市場レート」と称す)を青い線で示し、さらに日本円の米ドルに対する割高・割安度を棒グラフで示している。これを見ると、日本円は2015年に割高から割安へ転じ、その後はさらに割安度を深め、現在(2024年)はプラザ合意(1985年)を上回るほどの割安状態にあることが分かる2
 
1 購買力平価以外にも、物価差などから推計するREER(Real Effective Exchange Rate)、金利差などから推計するBEER(Behavioral Equilibrium Exchange Rate)、国際収支などから推計するFEER(Fundamental Equilibrium Exchange Rate)など様々な手法がある
2 トランプ関税の仕掛人とされているスティーブン・ミラン氏は2024年11月、"A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System"と題するレポートを発行、その中でミラン氏は「一連の懲罰的関税の後、欧州や中国などの貿易相手国が関税引下げと引き換えに何らかの通貨協定を受け入れるようになる」と指摘、トランプ関税が最終的に目指すのがプラザ合意(1985年)のような通貨協定であることを示唆し、「マール・ア・ラーゴ合意」というその名称まで明記している。

2――世界各地の通貨の割高・割安度

2――世界各地の通貨の割高・割安度

それでは、この割高・割安分析を用いて世界各地の通貨を計算してみよう。なお、ここで対象としたのは、2024年の国内総生産(GDP)で世界トップ40に入る、経済規模の大きい国・地域である。

その結果を見ると(図表-2)、米ドルより割高なのはスイスとイスラエルだけで、その他の37ヵ国はすべて割安である。まず主要先進国(G7)をみると、割高な方から米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリア、日本の順となっており、日本円は▲38.3%と最も割安な位置にある。但し、世界全体の中では第20位でほぼ中央値である。次にユーロ圏に焦点を当ててみると、分析対象とした8ヵ国はすべて割安だが、オランダは▲16.2%なのにスペインは▲35.5%と、PPPの違いから割安度には大きな違いがある。また新興国に目を転じてみると、中国(人民元)は▲50.9%、ベトナム(ドン)は▲72.2%、インド(ルピー)は▲75.9%などと、日本円より遥かに割安であることが分かる。

なお、プラザ合意時(1985年)と比べると、英国、ドイツ、フランスなどの通貨は当時より割安度が低い一方、日本、メキシコ、台湾、中国などの通貨は当時よりも割安度が高いことが分かる。

3――おわりに

3――おわりに

最後に、割高・割安分析を用いて得られる副産物の一つをご紹介しておきたい。ここもと日本文化に対する関心が世界的に高まったことなどから、さまざまな国・地域から日本を訪れる観光客が増えて、日本人がビジネスや街角で接する場面も増えてきた。そこで、「世界各地では、日本で1万円の価値のある商品群がいくらで取引されているのか?」を作成してみた(図表-3)。このレポートで用いたPPPは、前述したように異なる国において同じ商品群がいくらで取引されているのかを比べて算出したものであるため、訪日観光客が日本の店頭に並んでいる商品を見て、それが高いと感じるか、それとも安いと感じるのかを、定量的に捉えるのに応用できると考えたからである3

その図表-3を見ると、例えばオーストラリアの場合には、日本で1万円の価値がある商品が、オーストラリアでは1万5,353円で取引されていることが分かる。したがって、オーストラリアから訪日した観光客は「日本の物価は安い」と感じることが多いだろう。これは日本より左側に位置する米国や欧州諸国などにも共通した感覚と見られる。一方、タイの場合には、タイで4,820 円で買える商品が日本では1万円で取引されているため、タイから訪日した観光客は「日本の物価は高い」と感じることが多いだろう。これは日本よりも右側に位置する中国やベトナムなどにも共通する感覚と考えられる。
 
3 PPPはさまざまな商品で構成されるバスケットで評価したものであるため、商品によっては割高なモノも割安なモノもでてくる
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