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AI半導体関連銘柄を取り巻く環境

2025年05月08日

(原田 哲志) 株式

1――エヌビディアの株価は上昇が続いてきたが足元では下落に転じている

近年では、生成AIサービスの急速な普及などを背景に半導体需要が急速に伸び続けている。こうした状況の中、エヌビディアをはじめとした半導体関連銘柄に注目が集まっている。

AIは大量のデータを高速かつ効率的に処理する必要があり、その処理の中核を担うのが高性能な半導体である。特にディープラーニングなどの高度な演算処理を行うには、GPU(グラフィックス処理ユニット)やAI専用チップなどの半導体が不可欠となっている。

さらに、生成AIや自動運転、IoT(モノのインターネット)といった新しい技術分野でもリアルタイムで大量の情報処理を求められるため、高性能かつ省電力な半導体が求められている。クラウドサービスやデータセンターの拡大も半導体需要を押し上げる要因となっており、世界中の企業が半導体の供給を確保するための投資を加速させている。

このようにAI技術の発展と社会への浸透が進む中で、半導体はあらゆる産業の基盤技術としての重要性を増しており、今後もその需要は継続的に増加すると見込まれている。

その中でも、エヌビディアは、AI半導体分野において世界をリードする企業であり、その地位と強みは複数の要因によって支えられている。同社のGPUは画像処理だけでなく大量のデータを並列処理する能力に優れており、AIの学習や推論に最適とされている。特に「CUDA(キューダ)」という独自の開発環境を提供することで、研究者や開発者は効率的にAIアルゴリズムを実装可能となり、他社との差別化に成功している。

さらに、エヌビディアはAI分野への早期参入と継続的な投資により、AI専用チップ「H100」や「A100」といった高性能製品を次々と市場に投入してきた。これらはGoogleやMicrosoftなどの巨大IT企業や研究機関に広く採用されている。また、ソフトウェアとハードウェアを一体で提供するプラットフォーム戦略も奏功し、データセンター向けソリューションとしての地位を確立している。

図表1は、マグニフィセントセブンと呼ばれるエヌビディアを含む米国のテクノロジー関連の主要7銘柄(Apple、Microsoft、Alphabet、Amazon、NVIDIA、Meta、Tesla)の株価の推移を示している。

これを見るとS&Pや他の主要テック関連銘柄と比較してもエヌビディアが特に上昇していることが分かる

2――GPUからASICへの転換

2――GPUからASICへの転換

ただし、足元ではエヌビディアの株価上昇は変調しつつある。これには複数の要因が影響しているが、一つにはエヌビディア以外の競合の伸びが挙げられる。こちらは、エヌビディアと同業の半導体製造を行うブロードコムの株価の推移を示している(図表2)。これを見ると、直近1年で見たパフォーマンスは2024年12月を境にブロードコムが上回っているのが分かる。

ブロードコムの業績は、AI需要の高まりやVMwareの買収を背景に大幅に成長している。特に昨年12月12日に公表した第1・四半期(11─1月)の売上高見通しが市場予想を上回ったことで株価は大きく上昇した。
ブロードコム(Broadcom)の株価上昇は、主にAI関連市場の急成長と、それに伴うGPUからASIC(特定用途向け集積回路)への需要の転換によって支えられている。従来、AI処理には汎用性の高いGPUが主に用いられてきたが、電力効率や処理性能の面で、特定用途に最適化されたASICの需要が急速に高まっている。半導体にはいくつかの種類があり、これまではエヌビディアが得意とするGPUがAI向け半導体として利用される場合が多かったが、これがASIC(特定用途向け集積回路)に置き換わられつつあるのだ(図表3)。

ブロードコムは、高性能なASICの設計・製造に強みを持っており、主要なクラウド事業者やAI企業からの受注が増加している。また、AIチップの需要増加に加え、データセンターや通信インフラ向けの半導体製品の売上も堅調であり、収益基盤の多様化が投資家から高く評価されている。このように、GPUに代わる次世代AI処理基盤としてのASICの普及と、ブロードコムの技術力・市場ポジションが株価に反映されており、投資家の期待感が高まっている。

3――中国の主要テック企業「セブンタイタンズ」

3――中国の主要テック企業「セブンタイタンズ」

また、この他にもいくつかの要因がAI半導体関連銘柄の株価に影響している。今年はじめには、従来よりも限られたコンピュータ資源で高性能な生成AIを開発した中国の新興企業Deepseekに注目が集まった。

これまで生成AIサービスでは、潤沢な資金力やコンピュータ資源を持つ米国企業が先行していたがDeepseekの中国産の生成AIサービス提供により、関連する中国のAI・テック企業が再度注目される状況となっている。

仏ソシエテ・ジェネラルは、中国の主力株をセブンタイタンズと名付けた。騰訊控股(テンセント)、アリババ集団、小米(シャオミ)、中芯国際集成電路製造(SMIC)、比亜迪(BYD)、京東集団(JDドットコム)、網易(ネットイース)の7社が対象だ。

米国の「マグニフィセントセブン」と中国の「セブンタイタンズ」は、いずれも各国のハイテク・成長企業を代表する企業群だが、その背景や成長モデルに違いがある。セブン・タイタンズはマグニフィセント7と比較して時価総額が小さいが足元では注目が高まり株価が上昇している(図表4)。

米国のマグニフィセントセブンは、グローバル展開と技術革新を強みに持ち、AI、クラウド、EVなど成長分野でリーダーシップを発揮している。特にエヌビディアのAI半導体、TeslaのEV・自動運転技術は注目されている。

一方、セブンタイタンズは、主に中国国内市場を中心に発展し、eコマース、スマートフォン、家電、ゲーム、半導体製造など幅広い分野の事業を行っている。政府の規制強化や地政学リスクにより、成長にブレーキがかかる局面も見られるが、依然として中国経済における中核的存在だ。

今後、セブンタイタンズは国内需要の再成長や新興国市場への展開が鍵となり、マグニフィセントセブンは米国の関税などの政策動向が焦点となるだろう。今後の成長が期待されるAI半導体関連銘柄に引き続き注目したい。

金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

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