プレコンセプションケア 性と健康の相談事業とは?-令和5年4月時点で全国574か所で展開、最も多い相談内容は「妊娠・避妊に関する相談」-

2025年04月22日

(乾 愛) 医療

1――はじめに

日本では、令和5年3月に閣議決定された「成育基本方針(改訂)」において、「男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、健康管理を行うよう促すプレコンセプションケアを推進する」と明記され、令和6年6月には、経済財政運営と改革の基本方針2024において「相談支援等を受けられるケア体制の構築等プレコンセプションケアについて5か年戦略を策定した上で着実に推進する」旨が盛り込まれた。

こうした経緯を踏まえ、子ども家庭庁では、令和7年4月2日に有識者による検討会が開催され、プレコンセプションケア推進5か年計画(案)が策定され、自治体の目標として今後5年間で「性と健康の健康相談センター事業」の取組みを100%とする旨が示された。

日本では従来より「生涯を通じた女性の健康支援事業」における「女性健康支援センター事業」や「不妊専門相談センター事業」等において、思春期の健康相談、生涯を通じた女性の健康の保持増進、不妊症や不育症、若年妊娠等、妊娠・出産を取り巻く様々な悩みへのサポート体制を構築してきた。 

令和4年度からは、新たにこれらの事業を組み替え、男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身につけ、健康管理を促すプレコンセプションケアを推進することを目的に、思春期、妊娠、出産等のライフステージに応じた切れ目のない相談支援等を行う「性と健康の相談センター事業」を開始している1

本稿では、プレコンセプションケアを展開する上での要となる「性と健康の相談センター事業」に関する概要について簡単にご紹介したい。
 
1 子ども家庭庁「性と健康の相談センター事業の概要」
 https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/seitokenkogaiyo/ 

2――性と健康の相談センター事業の実績

2――性と健康の相談センター事業の実績

1|全国の展開状況
令和5年4月1日時点における「性と健康の相談センター」の設置状況は、全都道府県を含む90都道府県及び指定都市・中核市において362か所、他の事業や自治体の単独事業として実施されているものが38自治体で212か所となっており、合計で全国574か所となっている。

図表1の通り、配置されている専門職は、保健師が470名と最も多く、次いで助産師が205名、続いて看護師が112名となっており医療専門職が中心であることが分かる。中には、ピアカウンセラーが配置されている自治体もあり、同じような境遇や悩みを経験した者として相談対応にあたっている様子がうかがえる。
2|対応可能な内容と実際の相談内容
令和4年度における性と健康相談センター事業にて対応が可能な内容の内訳をみると(図表2)、「身体的・精神的な悩み」が最も多く、次いで「不妊」、続いて「妊娠・出産・産後」の順となっている。当事業の前身が「女性の健康相談センター」や「不妊専門相談センター」であったことを考えると、妊娠・出産に関する知識の提供や不妊症の相談対応はどの自治体においても強み(対応可能)であることがうかがえる。一方で、DVや性被害などに関する相談対応に関しては、心理士などの専門職が適任であることが多く、前述の専門職の配置を考えると、全ての相談センターで対応するには難しい内容であることも分かる。
また、実際の相談内容の内訳をみると(図表3)、「妊娠・避妊に関する相談」が最も多くなっている。このデータだけだと詳細が分かりかねるが、不妊に関する相談は別計上されていることから、より前段階の妊活に関する相談と、妊娠希望がない者における具体的な避妊方法などに関する相談内容が含まれていることが推察される。
日本産科婦人科学会によると2、妊娠の成功率は、20歳前半で30%、30歳で20%、35歳で10%程度であることが報告されており、実は、タイミングが合っていても妊娠の成功率は意外にも低いのである。筆者が保健師として妊活や不妊症に関する相談対応に当たっていた経験では、そもそも妊娠するための基礎知識がない場合が多かった。例えば、妊娠の確率が高くなるのは、排卵日の数日前から当日までであることが知られており、特に排卵日1日前から2日前の確率が最も高くなる。この排卵日を知るためには、日頃から基礎体温を計測し3、低温期から高温期に移行する直前に排卵が起こるタイミングを予測する必要がある。しかし、現行の学習指導要領の方針では、生殖の仕組み等に関する内容には触れるものの、具体的な妊活に関する基礎知識は提供されないため、子どもを希望するタイミングになって初めて自身で情報収集にあたることになる。これらの状況が一因となり妊娠に関する相談が多かったものと推察される。

一方で、避妊については、義務教育機関において性感染症予防のための手段としてコンドームについての知識提供がなされることがあるものの、そこから具体的な避妊具の使用方法まで教示するかは各教育機関の裁量に任せられるため、一律な知識提供がなされていない現状にある4。また、2011年には緊急避妊薬(アフターピル)が日本で承認され、2019年には後発医薬品が登場し、2023年には医師の処方箋なしに薬局での市販が開始されており、具体的な避妊具の使用方法や緊急避妊薬の入手方法などに関する相談需要が高まったものと考えられる。いずれにしても、義務教育機関の教育機会を逃した後は、自身で性や健康に関する情報収集をする必要があるため、教育機関に相談できない若年者や所属機関に適切な相談先がない「社会人のための保健室」としての機能が求められていると考えられる。5年後の自治体の取組み100%に向けて、まずは専門職の適正配置や認知度の向上を図る取組みを進める必要があろう。
 
2 日本産科婦人科学会「妊娠したいと思ったら」https://www.jsog.or.jp/public/human_plus_dictionary/pdf/3_1.pdf
3 基礎体温は、朝方起床直後に寝たままの状態で、体温計を舌の根本(舌小帯両側)に当てて計測するものである。
4 多くの義務教育機関で、性感染症予防のために避妊具に関する知識提供をするのではなく、性交渉自体を控える方針で教育がなされる傾向にある。

生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛(いぬい めぐみ)

研究領域:

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴

【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社

・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)

【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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