患者数:入院は減少、外来は増加-2023年の「患者調査」にコロナ禍の影響はどうあらわれたか?

2025年04月15日

(篠原 拓也) 保険計理

4――受療率

前章で見た患者数の推移は、全国で行われた医療サービスの規模の移り変わりをあらわしている。ただ、人口が変化する中で絶対値としての患者数の推移を見るだけでは、国民全体の受療の傾向がどう変化したのかはわかりにくい。そこで、患者調査では、人口10万人当たりの推計患者数である「受療率」が公表されている。(人口は、調査年10月1日現在の人口推計(総務省統計局)が用いられる。)
1|受療率 : 入院は低下、外来は上昇
2023年は人口10万人当たりで見ると、入院受療率は945人、外来受療率は5850人となった。入院受療率は、1200人を上回った1990年をピークとして徐々に低下する傾向にある。2020年以降は1000人を下回り、1970年代と同様の水準にまで低下している。2023年はコロナ禍の影響が残っているものとみられる。一方、外来受療率は、かつては調査年ごとに大きな上昇・低下を見せることもあったが、2011年以降は若干低下傾向となって推移してきた。しかし、2023年には反転して上昇した。
2|外来受療率は、女性のほうが大きかった
つぎに、受療率を、男女別に見てみよう。近年、入院、外来とも、女性のほうが高い水準で推移している。これは、女性のほうが長寿であり、人口の高齢層のウェイトが大きいためとみられる。

2023年の入院受療率は、男女とも低下した。低下割合は、男性のほうが女性よりもやや大きかった。一方、外来受療率は、男女とも上昇した。上昇割合は、男性よりも女性のほうがやや大きかった。
3|入院受療率は現役世代の15~34歳、35~64歳の低下が大きかった
続いて、受療率を、年齢層別に見てみる。14歳以下、15~34歳、35~64歳、65歳以上の4つの年齢層に区分してみよう。入院については、高齢層ほど、受療率が高い傾向がある。これは、年齢が進むにつれて、病気やケガで入院するケースが増えることを示している。年齢層ごとの差が大きいため、縦軸は対数表示としてみる。2023年は、入院受療率は、15~34歳、35~64歳、65歳以上で低下した。特に、現役世代の15~34歳、35~64歳の低下が大きかった。一方、14歳以下は、2020年に低下したことの反動で上昇した。
4|外来受療率は15~34歳の増加が比較的大きかった
一方、外来については、4つの年齢層の中で15~34歳がもっとも低い。これまで、各年齢層とも、多少の上昇・低下はあるが、概ね横這いで推移してきた。2023年は、各年齢層とも上昇した。上昇割合は、15~34歳が比較的大きかった。
5|精神及び行動の障害の入院受療率は、大きく低下した
続いて、受療率を疾病種類別に見てみよう。入院受療率の上位5つの疾病について推移を示す。2023年は、いずれも低下または横這いとなった。特に、精神及び行動の障害は、大きく低下した。循環器系の疾患と新生物<腫瘍>の入院受療率も低下割合が大きかった。一方、損傷,中毒及びその他の外因の影響や神経系の疾患は緩やかな上昇傾向にあったが、2023年は低下に転じたり、伸びが止まったりしている。
6|健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用の外来受療率は、予防接種により高水準
外来についても、外来受療率の上位6つの疾病の推移を見てみよう。

最も外来受療率の高い消化器系の疾患は、やや低下となった。循環器系の疾患と内分泌,栄養及び他代謝疾患はやや上昇、筋骨格系及び結合組織の疾患は低下となった。

呼吸器系の疾患で、+35.6%もの大きな上昇となった。これは、2020年にコロナ禍で、呼吸器系の疾患の患者が医療施設での受療を控えるケースが多かったことの反動とみられる。

一方、健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用は、2020年に大きな伸びを見せ、2023年にはその水準が横這いとなった。これは、主として、予防接種による。2020年の調査時点では、新型コロナのワクチンはまだ開発されていなかったが、インフルエンザとダブルで流行することを心配した人々が、大挙してインフルエンザの予防接種を受けた。2023年には新型コロナウイルス感染症は5類感染症に移行したものの、まだワクチン接種が続いていており7、高水準が維持された。これらの動きが統計に反映されたものと考えられる。
 
7 新型コロナワクチンの全額公費による接種は2024年3月31日に終了した。また、65歳以上の高齢者と基礎疾患のある60~64歳の人を対象とした定期接種に対する助成は2025年3月31日に終了した。
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