バミューダ金融当局の2025事業計画-今後再保険などで注目されるかもしれない。

2025年04月11日

(安井 義浩) 保険計理

1――はじめに

2025年1月16日、バミューダの金融当局(BMA :Bermuda Monetary Authority)が2025年に重点的に取り組む事項を公表した1

バミューダ諸島は、米国東海岸に近い北大西洋にある島々であり、英国領である。金融部門が主要産業の一つで、世界有数の金融センターとされる。さらにタックスヘイブン(租税回避地)の一つとして知られている。

今回は2025年のバミューダ金融当局の事業計画の内容について、見ておくことにしたい。
 
1 2025 BUSINESS PLAN (BMA 2025.1.16)
https://www.bma.bm/news-and-press-releases/press-release-the-bermuda-monetary-authority-publishes-its-2025-business-plan
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)

2――事業計画の文書の内容

2――事業計画の文書の内容~効率的でサステナブルな規制フレームワークの構築

国際基準に基づく厳格な監督と監視を維持・強化することは、世界的に信頼される金融サービスセンターとしてのバミューダの評判を維持するのに不可欠である。当局は金融機関の業務を積極的に監視し続けることにより、金融上の不正行為を防止し、安全で安定した金融サービスを育成することを目指していく。

また、他の規制当局との関係を構築し、さらに強化していくことにより、ベストプラクティスな規制を確立する。そのために国際基準設定機関の活動にも積極的に参加していく。2025年の重点的な目標は、気候変動リスクへの対応と、サステナビリティへの対応の発展に取り組み、その両分野で民間保険会社が直面するリスク管理に対して、適切な規制対応を確実に行うことである。

分野別には以下のようなものがある。
1保険分野
・国際的に活動する保険グループに対する共通フレームワークと、システミックリスクの包括的なフレームワークを、バミューダの事業規制に組み込むこととする。これには保険会社の破綻処理の仕組みやIAIS(保険監督者国際機構)の対象管轄区域評価(TJA :Targeted Jurisdiction Assessment)への継続的な参加が含まれるが、これらに限定するわけではなく、さらに幅広い活動にも関与していく。

・気候変動と保険による保護ギャップに注目し、気候リスクの管理とサステナビリティに関する規制や監督体制を強化する。気候変動リスクの財務情報開示のフレームワークについて民間の保険セクターと協議する。また、2025年中に民間保険セクターの気候変動リスクの追加調査が必要かどうかを評価する。

・引き続き、保険グループの監督体制を強化する。

・他の主要な監督機関や基準設定機関との連携を強化し、バミューダ市場レポートやその他の調査結果公表や意見表明などを通じて、バミューダの規制に対する他の機関の認識を高めていく。

・プルーデントな資産運用ガイダンスの提供

・民間の長期保険に対応する資産運用関連の情報公開の充実

・ストラクチャード商品・ローンの取扱いの推奨

・保険に関する行動規範、および運用サイバーセキュリティ対策に関する行動規範を見直し、AIや機械学習の利用のガイドラインを統合する利点を検討すること
2銀行分野
激動する規制環境の中で、銀行セクターがサステナブルであるために、監督・監視を強化するが、これにはこれまでの監督を継続することとともに、新しい健全性強化のための規制強化がある。2025年の優先事項は以下のようなものである。

・新規制(バーゼルIII)に沿って2025年より開始される、オペレーショナルリスク管理方針、大口エクスポージャー、信用リスク測定、流動性カバレッジなどの監督を開始する。

・1999年銀行・預金会社法の行動規範を監督プログラムにさらに取り入れる。

・銀行の特別破綻処理制度の更新に関する提案を継続

・業務の回復力の充実
3FinTechへの対応
FinTech部門は、急速に変革しながら成長している。2025年にはこの進化をサポートするために、全ての金融部門に資源を投入して、責任ある革新的なエコシステムの開発に引き続き取り組む。これには保険、投資、金融サービス事業、デジタル資産部門がある。

BMAは、健全性および行動規範を遵守しつつ、イノベーションを促進することに尽力するが、一方で、AIが金融サービスを大きく変える可能性があることも認識している。こうした中、ブロックチェーン技術、デジタル資産、分散型金融プラットフォームの導入が、規制の現状に様々な課題をもたらしている。BMAは、関連する知識を学び共有するために、以下のような事項に資源を割いていく。
 
・最新の決裁プラットフォームのための新規制の検討

・デジタルIDサービスプロバイダーの規制の検討

・保険分野の基礎的な取り組みの中で、中核となる仕組みの強化

・気候関連の、金融分野における革新的なビジネスモデルによる、サステナブルな資本政策への誘導

・DeFi(分散型金融)の監督のためのパイロットテストの実施

・認証におけるトークン化に関する研究

・効率的な監督のための技術開発
4サイバーリスクへの対応
サイバーリスクに対応できる回復力とセキュリティ強化を促進する。オンサイトおよびオフサイトの検査、年次収益分析、サイバーリスク評価を、引き続き実施する。特に以下のような事項である。

・インシデント通知とその後の原因調査

・規制の策定と規制対象企業へのガイダンス
5投資ファンドのディスクロージャー
これまでも、投資ファンド制度を強化するために、サステナビリティと気候関連の基準を広範囲にわたって調査してきた。2025年も引き続き透明性と情報開示をさらに促進するよう、主にサステナビリティ関連の情報開示要件を強化する。
6コンダクトリスクへの対応
顧客保護を促進する観点から、苦情レポートなどの情報源を利用して、銀行、保険、デジタル資産事業分野において、行動規範が準拠されているかどうかを監視し続ける。
7金融安定性の確保
バミューダは金融サービス企業の国際的な拠点であり、今後も金融の安定性の持続と回復力の保持を続けていく。潜在的なリスクをできる限り早く特定するために、マクロプルーデンシャルな監視とマクロ経済モニタリングを実施していく。

BMAは、バミューダの金融政策評議会(FPC)のメンバーおよび事務局として、潜在的なリスクに関するアドバイスとガイダンスを提供するため、積極的な役割を果たしていく。

国際的には、保険セクターのシステミックリスクを評価し軽減するために、IAISの対象管轄区域評価(TJA)に引き続き参加する。

その他にも国内外の金融監督者や利害関係者と協力していくが、その中で特に、大規模かつ複雑な金融機関の破綻処理や再生計画の策定などにも関与していく。

3――今後の動きについて

3――今後の動きについて

保険分野における日本との関連では、日本の保険会社がバミューダに籍を置く再保険会社に大規模な集約型再保険を出再するといった動きがあり、引き続き注目すべき動向であると考えられる。世界的に近年、集約型再保険(あるいは積立型再保険とも)が注目されつつある。これは貯蓄性の高い保険などを、運用資産もあわせてリスクを移転するもので、金額的にも他の再保険に比べて大規模なものになる。

リスク管理の面では、こうした取引がある中で、再保険会社が仮に破綻した場合、元受保険会社にどのような影響が及ぶのかといった疑問点、あるいはそれを回避するために海外の再保険会社の資産運用の実態を、充分にモニタリングできるのかといった懸念がある。

こうした動きが盛んになれば、わが国においても実態調査や規制の策定などに向かう可能性もある。バミューダの場合、そこにタックスヘイブンの税制措置も絡んで、税務取り扱いが適切におこなわれているかも確認されるだろう。今後の動向については、適宜続報を行うこととしたい。

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩(やすい よしひろ)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴

【職歴】
 1987年 日本生命保険相互会社入社
 ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
 2012年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 ・日本アクチュアリー会 正会員
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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