米雇用統計(25年3月)-非農業部門雇用者数が市場予想を大幅に上回る一方、失業率は横這い予想に反して上昇

2025年04月07日

(窪谷 浩) 米国経済

1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回った一方、失業率は市場予想を上回る

4月4日、米国労働統計局(BLS)は3月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+22.8万人の増加1(前月改定値:+11.7万人)と+15.1万人から下方修正された前月、市場予想の+14.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.2%(前月:4.1%、市場予想:4.1%)と前月から+0.1ポイント上昇し、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.5%(前月:62.4%、市場予想:62.4%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇し、横這いを見込んだ市場予想を上回った。(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:3月時点では堅調な労働市場を維持していたことを確認

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)は3月が市場予想を大幅に上回った一方、後述するように過去2ヵ月分の修正幅が▲4.8万人の下方修正となった。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+15.2万人と過去12ヵ月の月間平均増加ペースの+15.7万人を僅かに下回るペースで堅調な雇用増加が続いていることを確認した。一方、当月はトランプ政権が進める連邦政府職員の大幅削減にも関わらず、連邦政府職員の減少幅が▲0.4万人と小幅に留まった。ただし、BLSは有給休暇や退職金を継続的に受け取っている職員は雇用者数として認識されるとしており、今後減少幅の拡大が見込まれる。

家計調査では失業率が前月から上昇したものの、小数第2位までみると2月の4.14%から3月の4.15%と小幅な上昇に留まった。
一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月改定値:+0.2%、市場予想:+0.3%)と+0.3%から小幅下方修正された前月を上回った一方、市場予想に一致した。

前年同月比は+3.8%(前月:+4.0%、市場予想:+4.0%)とこちらは前月、市場予想を下回り、24年7月以来の水準に低下した(図表1)。

このようにみると、3月の雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を大幅に上回る伸びとなったほか、失業率の上昇も小幅に留まっており、3月時点の労働市場が堅調を維持していたことを確認する結果と言えよう。もっとも、連邦政府職員の雇用が過大評価されているとみられるほか、4月2日に発表した相互関税をはじめとする関税政策の影響により、米国経済に大幅な下押し圧力がかかるため、4月以降は労働市場の悪化は不可避だろう。

3.事業所調査の詳細:小売りや娯楽・宿泊が増加

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+19.7万人(前月:+9.0万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、専門・ビジネスサービスが前月比+0.3万人(前月:+0.7万人)、金融サービスが+0.9万人(前月:+1.6万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、医療・社会扶助サービスが+7.8万人(前月:+5.1万人)、運輸・倉庫が+2.3万人(前月:+1.6万人)と前月から伸びが加速したほか、娯楽・宿泊が+4.3万人(前月:▲1.7万人)小売業が+2.4万人(前月:▲0.2万人)と前月からプラスに転じた。とくに小売業は米スーパーのクローガーでのストが終結した影響が大きいようだ。

財生産部門は前月比+1.2万人(前月:+2.6万人)と前月から伸びが鈍化した。建設業が+1.3万人(前月:+1.4万人)と概ね前月並みの伸びを維持した一方、製造業が+0.1万人(前月:+0.8万人)と前月から伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+1.9万人(前月:+0.1万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が▲0.4万人(前月:▲1.1万人)とマイナス幅は縮小したものの、2ヵ月連続のマイナスとなった一方、州・地方政府が+2.3万人(前月:+1.2万人)と前月から伸びが加速して政府部門全体を押し上げた。
前月(2月)と前々月(1月)の雇用増加数(改定値)は前月が+11.7万人(改定前:+15.1万人)と▲3.4万人下方修正されたほか、前々月が+11.1万人(改定前:+12.5万人)と▲1.4万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲4.8万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って4月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+15.5万人(前月改定値:+8.4万人、市場予想:+12.0万人)と+7.7万人から小幅上方修正された前月から大幅に増加し、市場予想も上回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが加速した雇用統計とは整合的な結果となった。
 
3月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が36.00ドル(前月:35.91ドル)となり、前月から+9セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.2時間(前月:34.2時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,231.20ドル(前月:1,228.12ドル)となり、前月から増加した(図表4)。

4.家計調査の詳細:全体の労働参加率は上昇もプライムエイジでは低下

家計調査のうち、3月の労働力人口は前月対比で+23.2万人(前月:▲38.5万人)と前月から大幅なプラスに転じた。内訳を見ると、失業者数が+3.1万人(前月:+20.3万人)と前月から大幅に伸びが鈍化したものの、就業者数が+20.1万人(前月:▲58.8万人)と前月から大幅なプラスに転じて労働力人口全体を押し上げた。非労働力人口は▲5.6万人(前月:+54.6万人)とこちらは3ヵ月ぶりにマイナスに転じた。

これらの結果、労働参加率は62.5%と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表5)。

一方プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は3月が83.3%(前月:83.5%)とこちらは前月から▲0.2%ポイント低下した。男女の内訳は、男性が89.1%(前月:89.1%)と前月から横這いとなった一方、女性が77.6%(前月:77.9%)と前月から▲0.3%ポイント低下して全体を押し下げた。
失業率は3月が4.2%と前述のように小幅な上昇に留まったほか、24年5月以降は4.0%~4.2%の狭いレンジでの推移が続いている(前掲図表6)。
 
3月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は149.5万人(前月:145.5万人)と前月から+4.0万人の増加となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは21.3%(前月:20.9%)とこちらも前月から+0.4%ポイント上昇した(図表7)。一方、平均失業期間は22.8週(前月:21.3週)と前月から+1.5週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(168.7万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(478.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、3月が7.9%(前月:8.0%)と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.7%ポイント(前月:+3.9%ポイント)と前月から▲0.2%ポイント縮小した。
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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