「計画修繕」は、安定的な入居確保に必須の経営手法~民間賃貸住宅における計画修繕の普及に向けて~

2025年04月09日

(塩澤 誠一郎) 土地・住宅

はじめに

ここでは、国土交通省住宅局の補助事業でニッセイ基礎研究所が制作した、「民間賃貸住宅管理業者向け計画修繕ガイドブック」(以下ガイドブック)を紹介する。

計画修繕とは、修繕を計画的、予防的に行うことである。ガイドブックでは、計画修繕の意義や必要性、実施することのメリットを解説し、計画修繕の方法を提示して、そのために必要な資金を確保する方法を紹介している。

国土交通省が補助事業によりガイドブックを制作したのは、民間賃貸住宅における計画修繕の普及を政策的に促進するためである。なぜなら、賃貸住宅に限らず、すべての住宅について、建物生涯のCO2排出量を削減して地球温暖化対策に資すること、良質な住宅ストックを社会的資産として次世代に継承することといったことが政策課題となっており、そのため、質が高く長期に使用できる住宅ストックを形成していくことが住宅政策上重要になるからである1

それには、住宅を長期の使用に耐える機能、性能を有するものにすると共に、経年劣化の進行を食い止めるためのメンテナンスを計画的に実施することが必要である。計画的な実施というところで民間賃貸住宅は、分譲マンションなどと比べると対応が遅れている。したがって、民間賃貸住宅のオーナーや管理業者に計画修繕の実施を促すために、このようなガイドブックを制作した。

このガイドブックは、タイトルのとおり民間賃貸住宅管理業者が活用することを想定したものである。オーナーの経営パートナーである管理業者の多くが、ガイドブックを参考にそのノウハウを得て計画修繕の実施を提案できるようになることを期待している。

管理業者向けではあるが、オーナーが読んでもさほど難しくない内容にしたつもりである。その意味で、民間賃貸住宅の経営や管理に携わるすべての者に、ぜひ一読をお勧めしたい。

ガイドブックは2024年7月に公表されており、国土交通省のウェブサイトから誰でもダウンロードできる。したがって内容の詳細は実物をご覧いただくとして、本稿では、ガイドブックを制作した背景や、制作の過程で行った調査から明らかになったことを示しながら、ガイドブックを制作した意義を中心に紹介することとする。
 
1 住生活基本法に基づき策定されている、「住生活基本計画(全国計画)(令和3年3月19日)」は、国の住宅政策の指針を示したものであるが、ここには、基本的な施策として、「民間賃貸住宅の計画的な維持修繕や、賃貸住宅管理業者登録制度に基づく管理業者の適切な管理業務等を通じて、良質で長期に使用できる民間賃貸住宅ストックの形成と賃貸住宅市場の整備の推進」が謳われている。

1――ガイドブック制作の背景

1――ガイドブック制作の背景

はじめに、民間賃貸住宅において計画修繕を政策的に推進する必要性について、その背後にある実態を統計やアンケート調査結果から読み取りたい。
1|民間賃貸住宅の老朽化の状況
民間賃貸住宅は全国に約1,900万戸以上あるとされ、住宅ストック総数の約3割を占めている(図表1-1-1)。
建築年別に見ると、2000年以前に建築された築20年以上経過が全体の51%と半数以上を占めている。1990年以前の築30年以上経過で見ても29%と3割近くを占めている(図表1-1-2)。

築20~30年経過している建築物であっても、適切にメンテナンスが行われていれば問題はないはずであるが、そうでなければ、何らかの劣化や不具合の症状が見られ、中には腐朽や破損が生じることもあろう。
そこで、建築年別に腐朽や破損有りの状況を見ると、民営借家のうち1990年以前の建築では約36%に、2000年以前では約40%に及ぶ。これに対し持ち家はそれぞれ約17%、約19%と割合が低く、大きな開きがある。これは民間賃貸住宅において、より適切にメンテナンスが行われていないことが推察される結果である(図表1-1-3)。
更に建築年別に見た民営借家の滅失率が、比較的新しいものにおいても持ち家と比べて高い点も気になるところである。2011~2015年に建築したものの滅失率が28%と高くなっており、この中には、築年数がそれほど経過していないにもかかわらず、メンテナンスが十分でないため老朽化が進行し、経営が成り立たず除却に至った物件も含まれているものと思われる(図表1-1-4)。
2|修繕に関するオーナーの意識
こうした状況を踏まえ、民間賃貸住宅のオーナーに対して実施したアンケート調査を見ると、修繕を実施しているかという問いに対し、計画的に実施しているのは37%にとどまっており、20%が実施していないと回答している(図表1-2-1)。

修繕を実施しない理由を問う設問では、約32%が「自分の考えで実施しない」と回答しており、次に「資金的余裕がない」が23%、「管理会社からの提案がない」と「必要性が理解できない」が16%となっている(図表1-2-2)。
最も割合の高い、「自分の考えで実施しない」の回答者に、その自身の考えを問うたところ、「実施しなくても入居率は変わらない」が約49%と半数近くを占め、次いで、「必要なときに修繕すれば十分」が約40%となっている(図表1-2-3)。

以降で解説するが、こうした考えは、計画的に修繕を実施することの意義や必要性を理解していないことを示している。つまり、「必要性が理解できない」と合わせて、修繕を実施していないオーナーの4割程度はその必要性を理解していないということである。

社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎(しおざわ せいいちろう)

研究領域:不動産

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴

【職歴】
 1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
 2004年 ニッセイ基礎研究所
 2020年より現職
 ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

【加入団体等】
 ・我孫子市都市計画審議会委員
 ・日本建築学会
 ・日本都市計画学会

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