英国金融政策(3月MPC公表)-据え置きを決定、慎重な利下げペースを維持

2025年03月21日

(高山 武士) 欧州経済

1.結果の概要:政策金利の据え置きを決定

英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、3月20日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利(バンクレート)を4.25%で据え置く(8対1で、1名は4.25%への引き下げ主張)

【議事要旨等(趣旨)】
世界的な貿易政策の不確実性は強まっている
貿易政策による英国のインフレ率への影響は現時点では不透明
金融政策の制限度合いのさらなる緩和は段階的かつ慎重なアプローチが適切となる(従来と同じ)
インフレ持続リスクに加え、経済の需給バランスに関する証拠を注視する(従来と同じ)

2.金融政策の評価:新しい国内情報に乏しいなか、慎重な利下げペースを維持

イングランド銀行は今回のMPCで市場予想の通り1、政策金利を4.5%に維持した(決定は8対1で、1名は0.50%ポイントの利下げを主張)。

今回の会合では、前回のMPC会合から、世界的な貿易政策の不確実性は強まったとしたが、英国のインフレ率への影響は不透明であると評価された。また、据え置きに賛成した8名のメンバーは相対的に英国経済動向に関するニュースは少ないと評価している。金融政策姿勢については金融引き締めの緩和は段階的かつ慎重に行い、インフレ持続リスクや経済の需給バランスに注視するという従来のスタンスが維持され、新たな情報に乏しいなかで金利の据え置きによって、これまでの利下げペースと同様、四半期に1回の利下げというペースも維持された。

次回5月会合では、金融政策報告書が作成され、貿易の不確実性を含む新たな評価が行われ、英国のインフレや経済動向の新たな評価もなされるため、その結果に注目が集まるが、当面は2月の金融政策報告書の見通しや、そこに織り込まれた政策金利パスが引き続き基準となるだろう。2月の報告書に織り込まれた年内の利下げ回数は1回0.25%ポイントの利下げ換算で3-4回分であり、引き続き四半期に1回という段階的かつ慎重なペースでの利下げが基本シナリオと言える。
 
1 例えば、ブルームバーグの予想中央値は据え置きだった

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • MPCは中期的かつフォワードルッキングなアプローチを採用し、持続的なインフレ目標達成に必要な金融政策姿勢を決定する
 
  • 3月19日に終了した会合で、委員会は多数決により政策金利(バンクレート)を4.5%に据え置くことを決定した(8対1で決定2)、1名は政策金利を0.25%ポイント引き下げ、4.25%に引き下げることを希望した
 
  • 2月の委員会で述べられているように、以前の外的なショックが解消され、金融政策の制限的な姿勢が2次的効果を抑制し、長期の期待インフレを安定させてきたため、ここ2年はディスインフレ過程が大きく進展した
    • この進展により、MPCは持続的なインフレ圧力を取り除くために、引き続き政策金利を制限的な領域に維持する一方で、制限的な政策の度合いを段階的に緩和することを可能にさせた
 
  • 前回のMPC会合から、世界的な貿易政策の不確実性は強まり、米国は広範な関税について公共し、一部の政府は対抗している
    • 他の地政学的な不確実性もまた増加し、世界的な金融市場の変動が高まった
    • ドイツ政府は財政ルールに関する大幅な改革計画を公表した
 
  • 英国のGDP成長率は2月の金融政策報告書時点で予想されたよりもやや強いと見られるが、企業調査は成長や特に採用意欲の弱さを示唆している
    • ここ数四半期の経済活動の停滞は、需要と供給の双方の要因を反映していると判断される
 
  • CPIインフレ率は前年比で12月の2.5%から1月には3.0%まで上昇し、2月報告書の予想よりもやや高かった
    • 国内の物価と賃金の圧力は緩和しているが、依然としてやや高止まりしている
    • 世界的なエネルギー価格は、最近、低下しているが、去年よりは高く、CPIインフレ率は引き続き25年10-12月期には3.75%程度に上昇すると見られている
    • その後はインフレ率が低下すると見られるが、委員会はより持続的なインフレ圧力の兆候に多くの注意を払う
 
  • 今回の会合で、委員会は政策金利を4.5%に維持することを決定した
 
  • 委員会の中期的なインフレ見通しの見解に基づき、金融政策の制限度合いのさらなる緩和は段階的かつ慎重なアプローチが適切となる
    • 供給に対して需要が相対的に弱い状況が大きくなる、もしくは長く継続すれば、インフレ圧力は押し下げられ、より制限度合いを緩和した政策金利の経路が可能である
    • 需要に対してより供給が抑制され、短期的なCPIインフレ率の上昇と関連して2次的効果が生じるなど物価と賃金圧力が持続的となれば、相対的により制限的な金融政策経路が適切となる
 
  • 委員会は引き続きインフレの持続性のリスク、および経済の需要と供給の総合的なバランスに関して証拠が示唆することについてよく注視する
    • 金融政策は、中期的に、インフレ率の持続的な2%目標への回帰に対するリスクがさらに解消するまで、引き続き十分な期間(sufficiently long)、制限的にする必要がある
    • 委員会は各会合で金融政策の制限度合いを適切に決定する
 
 
2 今回反対票を投じたのはディングラ委員。前回は政策金利の0.25%のポイント引き下げが決定されるなか、ディングラ委員およびマン委員が0.50%ポイントの引き下げを主張した。

4.議事要旨の概要

議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
(国際経済)
  • 委員会は貿易の不確実性が高まっている結果として、英国を含む多くの先進国の経済活動に関する短期的な見通しへのリスクが引き続き下方にあると判断している
    • 現時点では英国のインフレ率への影響は不透明で、他の国の貿易政策がどうなるか、為替レートを含む様々な経済の経路に対してどのように伝達されるかに依存する
    • 委員会は急速に進展する状況について注視し、5月の報告書でさらなる評価を行うとした
 
(供給、費用、物価)
  • 賃金に関する広範な指標は、基調的な賃金上昇率がここ数か月でさらに緩和していることを示唆していたが、経済のファンダメンタルズから説明される水準を超えて高止まりしている
    • 基調的な賃金上昇率の鈍化は、民間部門の週当たり平均定期賃金(AWE)上昇率で、7-9月期の4.9%から11-1月期には6.1%まで上昇したことと対照的であった
    • 中銀スタッフの分析では業種間およびフルタイム構成比の構成効果がAWE上昇率の一部分を説明していることを示唆している
    • また、歴史的に変動の大きくなった一部分の業種が10-12月期のAWEの上昇を説明していることを明らかにしている
    • このような変動の大きい業種の重みを引き下げると、AWE上昇率は中銀スタッフの基調的な賃金上昇率とより整合的となる
 
  • サービスインフレ12月の4.4%から1月には5.0%に上昇した
    • しかし、この上昇は2月の報告書時点での予想よりもいくぶん弱かった
    • 基調的なサービスインフレは、除外アプローチ、トリミングアプローチ、再加重アプローチを問わず、広範な指標で高止まりしている
    • これらは24年から低下基調にあったが、12月から1月にかけて前年比の基調的なサービス物価にはほとんど変化がなかった
    • 基調的なサービスインフレの指標は、予定されている雇用者に対する国民保険料の引き上げの影響をおそらく反映しており、今後数か月間の解釈には注意を要する
 
(当面の政策決定)
  • 最新の賃金交渉と賃金予想データは今年にかけて賃金上昇率が緩和し続けることを示唆していた
    • 委員会は今年広範に入手できるより広範な賃金交渉データに注目している
    • より一般的に将来の賃金伸び率の軌道は経済の生産性成長率と比較して、国内のインフレ圧力の持続に関する委員会の見解の重要な決定要因になるだろう
 
  • 今回の会合で8人のメンバーが政策金利を4.5%に維持することを希望した
    • 委員会は2月に域内物価と賃金のディスインフレの進展が全般的に続いていると述べた
    • 前回の会合以降、世界的な不確実性の強まりにもかかわらず、相対的に英国経済動向のニュースは少なく、基調的なメンバーの経済やインフレ見通しに関する見解のバラツキも継続していた
    • 引き続き供給と需要のバランス、国内の物価と賃金圧力の持続性に関して両面のリスクが存在する
    • 基調的なディスインフレ過程は続くと見られるものの、進展の評価には証拠の蓄積が必要である
    • 金融政策の今後数会合にわたる事前の経路設定のような仮定は存在しない
 
  • 1名のメンバーは政策金利を0.25%引き下げ、4.25%とすることを希望した
    • 世界的な物価動向は当面のリスクとなり続けていたが、個別のデータではインフレ率が賃金と物価設定の双方の経路で低下を続けていることを示している
    • インフレ過程における上昇時と下降時の動きが非対照的になるという初期の懸念は、財のディスインフレが消費者に転嫁されたため、実現しなかった
    • 弱い需要の見通しは、サービスインフレが中期で持続的に目標に向かって正常化することと整合的である
    • 政策金利設定は、政策の波及や長期間にわたる金融政策の制限により生じる供給力へのリスクを考慮する必要がある

経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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