成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年下期)-「オフィス拡張移転DI」の動向

2025年02月26日

(佐久間 誠) 不動産市場・不動産市況

3|ビルクラス別の格差は縮小、ハイグレードビルへの需要回復
ビルクラス別のオフィス拡張移転DIを見ると、2024年下期はAクラスビルが79%(前期68%)、Bクラスビルが84%(同76%)、Cクラスビルが71%(同74%)となり、特にグレードの高いビルでの上昇が顕著だった(図表6)5。コロナ禍では、Aクラスビルのオフィス拡張移転DIが大幅に低下し、オフィスビル間の格差が拡大していたが、現状ではこうした差異は縮小している。さらに、現在は人手不足を背景に、優秀な人材の確保や従業員の定着を目的として、ハイグレードなビルへの移転を進める企業が見受けられる。2025年は新規供給の増加に伴う需給の軟化が懸念されるものの、ハイグレードビルへの需要回復は、市場にとって前向きな要素と捉えられる。
 
5 各ビルクラスの分類は、三幸エステートの定義に基づき、同基準を満たすビルを抽出した上で、ビルクラス別のオフィス拡張移転DIを算出している。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している(詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2025」を参照)。

3――おわりに

3――おわりに

本稿では、オフィス拡張移転DIをもとに2024年下期のオフィス移転動向を分析した。

その中で、

(1)オフィス拡張移転DIは緩やかながら上昇し、市場全体として底堅い推移を維持している

(2)業種ごとの大きなトレンドは見られなかったが、情報通信業ではハイブリッドワークの影響により縮小移転が一定数発生している

(3)ビルクラス間の格差は縮小し、特にグレードの高いビルでオフィス需要が回復した

ことを確認した。

以上のように、2024年下期のオフィス市場は、底堅い推移を維持しながら改善傾向を続けている。2025年には新規供給の増加が見込まれる中、市場の回復基調を維持できるかが重要な焦点となる。また、こうした底堅いオフィス需要が明確な賃料上昇へとつながるかどうかは、金利のある市場環境に移行する中で、引き続き注視すべきポイントとなるだろう。

【参考資料】 オフィス拡張移転DIについて

【参考資料】オフィス拡張移転DIについて

オフィス拡張移転DI6は、オフィス移転後の賃貸面積が移転前と比較して(1)拡張、(2)同規模、(3)縮小、した件数を集計し、次式により計算している。
 
オフィス拡張移転DI
 =1.0×拡張移転件数構成比+0.5×同規模移転件数構成比+0.0×縮小移転件数構成比  

オフィス拡張移転DIは0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを表す。例えば、図表 7のように、オフィス移転が合計500件あり、そのうち拡張移転が150件、同規模移転が300件、縮小移転が50件の場合、オフィス拡張移転DIは60%となり、企業の拡張意欲が強いことを表す。
 
6 DIはDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略、変化の方向性を示す指標のことである。DIの代表例としては、経済分野では日本銀行の 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)や内閣府の景気動向指数、また不動産分野では土地総合研究所が公表する不動産業業況等調査(不動産業業況指数)がある。

金融研究部   主任研究員

佐久間 誠(さくま まこと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴

【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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