2024年12月5日、欧州委員会はTikTokに対して、デジタルサービス法(Digital Services Act、以下「DSA」)
1に基づいてルーマニアの選挙にかかわるデータについての保持命令を発出したことをプレスリリースした
2。
ルーマニアでは去る11月24日に行われた大統領選挙の1回目の投票で、無名の存在だったロシア寄りの主張を掲げる無所属のジョルジェスク氏がTikTokを中心に動画を拡散する選挙運動を行い、本命であった現職首相を上回って首位に立った。これに対し憲法裁判所が「公正な選挙の過程が損なわれた」として、選挙を無効とする判断を下した。この結果、8日に行われるはずであった決選投票は行われないこととなった
3。なお、12月1日には国政選挙(上下院)が行われている。
プレスリリースによると、欧州委員会は、選挙プロセス自体の適否はルーマニア国民が判断すべきことであり、欧州委員会の権能を超えるとしてその内容には干渉しないとする。ただし、DSA上で、特に巨大なプラットフォーム(Very large online platform、VLOP)に指定されているTikTokのルーマニア選挙における行為については、DSA違反かどうかの監視(monitoring)を強化するとした。
TikTokに対する保持命令ではEU域内における選挙プロセスと民間の議論に実際に及ぼしたデータ、あるいは予見可能であるシステミックリスクに関連するデータを凍結し、保持することを求めている。これによりTikTokがDSA上の義務を遵守したかどうかさらなる監査(investigation)を欧州委員会が行うにあたっての情報と証拠が保全されることになる。
TikTokは、その推奨システムの設計と機能、並びにTikTokが組織的に行われたサービス不正利用のリスクにどのように対処したかに関する内部文書と情報を保持しなければならない。また、欧州委員会は、TikTokの提供するサービスにおいて、政治的プロモーションにかかる収益機能の使用を禁止する利用規約の組織的違反行為に関連する文書と情報の保持も命じている。この保持命令は、2024年11月24日から2025年3月31日までの欧州連合(EU)内の国政選挙に関して命じられている。
保持命令の発出は、進行中のルーマニアの選挙に関して、特にロシアからの干渉を示す情報が機密解除され、それを欧州委員会が受領したことに基づくものである。現段階では欧州委員会は法令遵守を監査中で、TikTokがDSA違反かどうかについて特段の立場を取らないとする。
上記の通り、VLOPであるTikTokにはシステミックリスク抑制の義務が課されている(DSA35条)。ここでいうシステミックリスクには、「市民の言説と選挙プロセス、および治安に対する実際のまたは予測可能な悪影響」を含む(DSA34条1項(c))。仮に、TikTokがルーマニアの選挙において、組織的な不正投稿が行われていることを知りつつ、これを抑止しなかったと欧州委員会が認定(DSA73条)した場合、TikTokには制裁金のペナルティが課される(DSA74条)可能性がある。
日本でも最近は、国政選挙、地方選挙問わず、SNSの影響力が大きくなってきている。個人が法の認める範囲内で自己の意思で自由にその意見を発信することは健全であろう。しかし、民意が的確に選挙結果に反映されるためには、外国勢力などの組織的・意図的なSNSの悪用は規制が必要と思われる。日本でも何らかの対応は必要ではないだろうか。