日銀短観(12月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント低下の11と予想、日銀の利上げ判断を補強するか

2024年12月05日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

12月短観予測:景況感は総じて弱含みも、投資は堅調、インフレ予想も不変

(非製造業の景況感もやや悪化) 
12月13日に公表される日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが11と前回9月調査から2ポイント低下し、景況感の小幅な悪化が示されそうだ(表紙図表1)。この場合、同DIの低下は3四半期ぶりとなり、昨年後半以降、景況感が一進一退の域を脱していない形になる。自動車生産の回復等が支えになったものの、中国・欧州経済の低迷などが逆風になったと考えられる。また、大企業非製造業も、物価高による消費マインドの低迷等が重荷となり、業況判断DIが32と前回比2ポイント低下すると予想している。
 
ちなみに、前回9月調査1では、半導体需要の回復と台風による工場停止が拮抗する形で大企業製造業の景況感が横ばいとなった一方で、好調なインバウンド需要等を背景に非製造業では景況感が若干改善していた(図表2・3)。
前回調査以降、大企業製造業では、台風・認証不正問題による供給制約の解消に伴って自動車生産が回復したほか、世界的なAI関連需要の増加が景況感の支えとなったものの、中国・欧州経済の低迷や建材需要の落ち込みによる悪影響が上回ったと考えられる。

また、大企業非製造業も、引き続き堅調なインバウンド需要が支えとなったものの、物価高による消費マインドの低迷に加え、気温の高止まりによる季節商品の販売不振が重荷となり、景況感が弱含んだと見ている(図表4~7)。

中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から2ポイント低下の▲2、非製造業が3ポイント低下の11と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感がやや悪化すると見込んでいる。中小企業では大企業ほど海外経済の直接的な影響を受けないものの、人手不足とそれに伴う人件費負担増加が大企業以上に景況感の圧迫要因になっていると推測される。
 
先行きの景況感については総じて悪化が示されると予想(表紙図表1)。製造業では、1月に発足するトランプ米政権による関税引き上げや米中貿易摩擦激化への警戒感が景況感に現れるだろう。非製造業では、物価高の長期化による消費の腰折れや人手不足に対する懸念から、先行きの景況感が悪化すると見ている。
 
1 回収基準日は前回9月調査が9月11日、今回12月調査が11月27日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画は堅調を維持)
2024年度の設備投資計画(全規模)は、前年比9.0%増と前回9月調査(8.9%増)からわずかに上方修正されると予想(図表8~10)。これまでの進捗の遅れなどを受けて、上方修正幅は0.1%ポイントと例年2よりやや小幅となるが、大きな差はない。

例年12月調査では年度計画が固まってくることで、中小企業を中心に投資額が上乗せされる傾向が強い。さらに、実態としても、堅調な収益を背景として十分な投資余力が確保されるなかで、省力化・脱炭素・DX・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要を反映した堅調な投資計画が維持されると見込んでいる。
 
ただし、今年度からの労働時間規制強化の影響もあって、建設業界では人手不足という供給制約が強まっている。このため、年度末に向けては、工事進捗の遅れ等に伴う設備投資計画の下方修正リスクに一層の留意が必要になる。
 
2 直近10年間(2014~23年度)における12月調査での修正幅は平均で+0.5%ポイント
(注目ポイント:販売価格の見通し・インフレ予想など)
日銀は今後の金融政策について、「経済・物価の見通しが(物価上昇率が2%程度で安定していくという)日銀の想定通り実現していくとすれば、それに応じて政策金利を引き上げる」との方針を掲げているうえ、早期の利上げを模索していると見られることから、今回の短観の内容が全体的に見て日銀の見通しに沿った内容となるかが注目される。
 
具体的には、既述の業況判断DIや設備投資計画のほか、「販売価格判断DI」と「企業の予想物価上昇率」の動向が注目される。

販売価格判断DIは企業の価格設定スタンスを表す。足元の輸入物価は前年比で概ね横ばいとなっているが、企業が来年度の賃上げ原資確保のために販売価格引き上げの勢いを維持ないし拡大する意向なのかが着眼点となる(図表11)。とりわけ、価格転嫁が遅れ、賃上げ余力に課題を抱える中小企業の状況が焦点となる。

また、企業の予想物価上昇率を示す「企業の物価見通し」は一昨年後半以降、全期間(1年後・3年後・5年後)で物価目標である2%以上の推移が続いている。予想物価上昇率の高止まりは企業による販売価格と賃金設定にプラスの影響を与えるだけに、今回も2%以上が維持されるかがポイントになる。
(日銀の利上げ判断を補強する材料に)
既述の通り、今回の短観はヘッドラインとなる企業の景況感が総じてやや悪化すると見込まれるものの、もともと日銀は景況感について「良好な水準を維持している」(10月の展望レポート)との判断を示しているため、大崩れしない限り影響は限られる。むしろ、今回も堅調な設備投資計画が維持されるほか、値上げの継続意向や高いインフレ予想、強い人手不足感などが確認されることで、日銀として、追加利上げの根拠となる「経済・物価が見通しに沿った経路を辿っている(オントラックにある)」との判断を補強する材料に位置付ける可能性が高い。

あとはタイミングの問題になりそうだ。日銀は「賃上げに向けたモメンタム」、「米国経済の動向とトランプ次期大統領の政策リスク」、「円安の進行度合い」、「市場参加者による利上げの織り込み度合い」、「政治サイドの感触」などの各種要素も勘案しながら、早期に0.50%程度への追加利上げに踏み切るだろう。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)