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社会的リスク
社会的リスクは、サステナビリティリスクの一部をなすものとみなせる。保険会社がこの分野の対応を誤れば、結果的には資産・負債の評価に影響するものと考えられるので、現在の健全性評価にある各リスクに取りこんで、注意をはらうべきである。
現在あるリスクの分類には、保険引受リスク、市場リスク、オペレーショナルリスク・風評リスクなどがあるが、社会的リスクをこれらに取り入れるには、例えば、
・保険引受リスクには、社会的リスクのうち、物理的リスクとして、様々な事業にわたる労災保険や信用保険などの損害保険分野の保険料率や、健康保険など生命保険分野の各種発生率の変動リスク、また運営コストの増加リスクや解約リスク、その他カタストロフィックなリスクを含めることが考えられる。
移行リスクとして、ダイバーシティやインクルージョン、ジェンダー平等などの社会問題や要請に関する「社会的な不正義」に対応する賠償責任保険について、保険料率や準備金水準において影響を与えるリスクが考えられる。
・市場リスクには、移行リスクの高いセクターの株式や債券の保有リスクをさらに考慮して組み込むことが考えられる。
・オペレーショナルリスク・風評リスクには、保険会社自身の経営状況(例えば、従業員の解雇、コールセンターの移転、社会保障の縮小など)の悪化などが含まれる。また社会的に有害な活動に対する保険契約の引受け、あるいは多様性を軽視したような取扱いや社会的弱者への保険に関する不公平な取り扱いなどが、リスクとなる可能性がある。
とはいえ、現時点ではこういった事象の定量評価をするための社会的コンセンサス、あるいは具体的なデータやリスク評価モデルも不充分である。従って社会的リスクに関しては、
・具体的な定量評価(第一の柱)について今回は触れない。
・リスク管理体制やその自己評価や保険監督(第二の柱)に関しては、経営方針全般あるいはリスク管理方針に関して、例えば移行リスクの高い投資の制限や、ダイベストメント、インパクト投資、インパクト保険引受などにどう取り組むかということ、それに対応したガバナンス構造などが、問われることになる。
・最後に情報開示(第三の柱)については、現在のところ、ソルベンシーII規制においては、特に社会的リスクの報告は要求されていない。ただし他の開示報告、例えばSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)やCSRD(企業サステナビリティ報告指令)においては、一部要求されている。EIOPAとしては今回追加の要求は行わないが、今後のさらなる状況分析によっては、保険会社の健全性情報を提供できるような、定量的な報告要件が求められるようになる。
3――今後の動きについて