所謂「若者の○○離れ」と呼ばれる現象は、それ以前の世代が
その時代の若者を特徴づけようとするある種の「レッテル」である。日経クロストレンドによれば
240年以上も前から「若者の○○離れ」は、語られており、「若者の海外離れ」においても、今から10年前の2014年には中村哲らによって『「若者の海外旅行離れ」を読み解く 観光行動論からのアプローチ』(法律文化社)
3という体系化された書籍まで出版されている。同著によれば1998年8月1日の日本経済新聞には「海外旅行減少の本当の理由 若者が目的を失う」
4,5という記事が掲載されていたことを指摘している。その記事によれば「若者の海外旅行は96年をピークに、昨年から長期的な凋落傾向に入ったと言えそうだ」と記載されている。当時のその要因として、日経産業消費研究所の永家一孝主任研究員は、消費低迷と急激な円安の影響を背景に「若者にも消費意欲の減退がみえる」と、若者の消費動向に触れてはいるものの、その記事では若者にとって海外旅行とは「海外でしか達成できない目的を遂行するための単なる交通手段にすぎない」というピンポイント旅行に焦点が置かれており、経済(消費)は大きな要因として向き合われていない。
中村哲によれば「若者の海外離れ」というフレーズが本格的にメディアを賑わせたのは2007年7月のJTBによる海外旅行動向レポートの発表を受けてからだという
6。この時点で「人口減少と共に若者の海外旅行離れが進めば、将来的に市場が縮小する恐れがある」との指摘が生まれている。同年の10月19日の日経流通新聞の「20代海外旅行離れのワケ」
7という記事では、旅行費用が高額であることを触れたうえで、国内旅行の方が安心、海外に関心がない、といった当時の若者の内向き志向が主要因として挙げられている。その後は、旅行に限らず全体的に消費しなくなり、貯蓄傾向、自己顕示的な消費に興味を示さない、自身が欲しいモノ、コスパの良いモノ、身の丈に合うものを買う傾向があるという、若者の堅実性の文脈で「若者の海外離れ」が取り扱われるようになっていく。
一方で、20代の出国者数が1996年の463万人をピークに減少傾向が続くことや、出国者数のうちの20代の割合が90年代から大幅に減っていることを根拠に、「若者の海外旅行離れ」が語られがちだが、20代人口が減少していることが大きく影響しており、20代人口に占める20代の出国者数の割合をみると、1996年は24%なのに対して2015年は20%と微減レベルで、1980年代のバブル期は15%前後であることを考えれば、2015年の方が若者は海外旅行に積極的であったと、「若者の海外離れ」を否定するような論客も存在するのも確かだ
8,9。とはいえ、少なからず25年以上前から「若者の海外離れ」について議論されているにもかかわらず、その現状に打開策はなく、問題危惧だけがされてきただけだ。