インバウンドの勢いが増す中で、本稿では政府統計を用いて、2024年4-6月までの消費動向について捉えた。その結果、コロナ禍前同期と比べて訪日外客数は約1割増える一方、消費額は円安による割安感や国内の物価上昇によって1.7倍に増え、四半期で初めて2兆円を越えた。2024年上期では3兆8,875億円となり、2024年4-6月ベースで積み上げると年間では8兆円を超え、過去最高値を記録した2023年(5兆3,065億円)を優に超えることになる。
詳細を見ると、平均宿泊数がコロナ禍前と比べて若干増えるとともに(2024年4-6月:平均8.5日で2019年同期+0.5日)、1人当たりの消費額が1.5倍に増え(同:平均23万8,722円で同+54.0%)、特に欧米からの訪日客では2倍近くに増えていた。
なお、コロナ禍前に圧倒的な存在感を示した訪日中国人観光客は回復途上にあり、外客数は韓国に次ぐ2位にとどまっていたが(コロナ禍前の75%程度まで回復)、消費額で見れば首位を占め(同95%程度まで回復)、インバウンド消費全体の約2割を占めていた。
また、消費の内訳を見ると、円安による割安感や訪日中国人観光客の回復傾向の強まりから、買い物代の割合が上昇し、3割を超えていた。今後は更なる訪日中国人観光客の回復と、為替の状況から(原稿執筆時点の2024年8月では1米ドル140台を示し、ピーク時より円高方向に触れているが、コロナ禍前と比べれば依然として大幅に円安)、一層、買い物代の割合が高まる可能性がある。
とはいえ、中長期的にはリピーターも増えるとすれば、モノを買うというよりも、日本ならではの体験をしたいというコト消費の需要は強まっていくだろう。これまでも指摘してきたが、娯楽サービス(現地ツアーやテーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉やエステ、マッサージ、医療費など)は、現在のところ内訳の数%程度に過ぎないが、今後の伸びしろが期待される。特に日本ではナイトタイムエコノミーに該当するサービスや富裕層向けの質の高いサービスが不足しており
5、新たなサービス需要の開拓は、成熟しつつある日本人の消費市場の更なる発展にもつながる。
サービス業では特に人手不足が深刻だが、労働生産性には改善の余地があり、効率的な労働投入(宿泊業などの繁閑の差が激しい業種における地域全体での雇用シェアや物品の共同購入など)や業務の効率化(デジタル化、無人化など)に加えて、付加価値の向上(デジタル化でサービスが同質化する中で文化芸術や地域文化の伝承などを根幹に据えたサービス提供など)などが指摘されている
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少子高齢化による労働力不足という日本の構造的な課題によって、供給不足による機会損失も生じている。多方面から生産性向上を図る施策が進められることで、インバウンドのみならず、国内の個人消費の底上げも期待される。
5 国土交通省「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(平成31年3月)や株式会社日本総合研究所「平成30年商取引・サービスの適正化に係る事業(日本版ブロードウェイ構想に関する基盤調査)報告書」など。
6 経済産業省「サービス産業×生産性研究会」報告書(2022年3月)