イメージする更年期症状は、実際の症状と結構違う~実際はホットフラッシュやイライラばかりではない

2024年04月30日

(村松 容子) 医療

1――はじめに

定年まで働き続ける女性が増えたことに加え、第二次ベビーブーマーが50代を迎え、更年期症状に悩まされる女性就労者がかつてないほど多くなっていると考えられる。「女性の更年期症状と就労1」で紹介したとおり、更年期症状を感じていても医療機関を受診する人は少ない。受診した人でも半数程度が、最初に症状に気づいてから受診するまで6か月経過しているという。自分の症状が更年期症状なのかわからなかったり、症状が軽く、病院に行くほどでもないと判断したりするようだ。

そこで、ニッセイ基礎研究所では、2024年3月に、20~59歳の女性を対象に、月経随伴症候群や女性の更年期症状に関する調査を行った2。今回は、その中から、更年期症状を自覚したことがない人がイメージする更年期症状と、実際の更年期症状がどれほど違うのかに注目して調査結果を紹介する。
 
1 村松容子「女性の更年期症状と就労」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2024年3月26日):https://www.nli-research.co.jp/files/topics/78024_ext_18_0.pdf?site=nli
2 ニッセイ基礎研究所「女性の健康に関する調査」。全国の20~59歳の女性を対象とするインターネット調査。有効回答数3000。年齢階層別(5歳ごと)の配偶関係を2020年の国勢調査の分布に近づけた他、有職(正規・その他)・無職・学生の割合を実態に合うよう回収した。

2――更年期症状の自覚状況

2――更年期症状の自覚状況

1|更年期症状の自覚・受診
まず、更年期症状による医療機関受診等状況を尋ねた。その結果、「医療機関への受診により、治療を受けたことがある/治療を受けている」「別の病気を疑って医療機関を受診したら、更年期障害である可能性を指摘された3」等、医療機関に相談をしていると思われる人は、全体でそれぞれ5.4%、0.9%で合わせて6.3%だった。また、「医療機関を受診はしたことがないが、医療機関に相談をすると良いかもしれないと思う症状がある」「医療機関を受診するほどではないが、思い当たる症状があった/ある」等、医療機関を受診していないが、何等かの症状を自覚している人は、全体でそれぞれ3.7%、16.0%で合わせて19.7%だった。「自分では気づかなかったが、周囲からいわれたことがある」が1.1%、「その他」が1.3%、「考えたこと/疑ったことはない」が71.6%だった。

年齢による差は大きく、50~59歳では、医療機関に相談をしていると思われる割合は10.4%、医療機関を受診していないが、何等かの症状を自覚している割合は28.6%、「考えたこと/疑ったことはない」は57.9%だった。ただし、20~29歳でも、3.6%が医療機関に相談、8.0%が何等かの症状を自覚しており、年齢による差は大きいものの20代であっても症状がある人もいる。
「医療機関への受診により、治療を受けたことがある/治療を受けている」「別の病気を疑って医療機関を受診したら、更年期障害である可能性を指摘された」「医療機関を受診はしたことがないが、医療機関に相談をすると良いかもしれないと思う症状がある」「医療機関を受診するほどではないが、思い当たる症状があった/ある」と回答した人を、更年期症状の「自覚者」とし、「考えたこと/疑ったことはない」と回答をした人を、更年期症状の「非自覚者」とすると、自覚者は、39歳以下は1割強、40歳代でおよそ3割、50歳代でおよそ4割だった。また、自覚者のうち、医療機関を受診しているのは、50歳代でも1/4程度に留まっていた。
 
3 質問票においては、月経随伴症状と更年期症状それぞれについて、「別の病気を疑って医療機関を受診したら、月経随伴症状やPMS、更年期障害である可能性を指摘された」という選択肢を用意したが、この2つの症状を混同して回答することがないようこの2つの症状を併記する等の工夫を行った。そのため、ここでは、月経随伴症状やPMSではなく更年期障害の可能性を指摘されたと解釈した。
2|自覚者が経験した症状と、非自覚者がイメージする症状
自覚者が「更年期症状として経験したことがある症状」と、非自覚者が「イメージする更年期症状」を比較した。(図表2)。

更年期症状自覚者が更年期症状として自覚したことがある症状としては「疲れやすい」が51.2%と、半数を超えてもっとも高い。次いで「肩こり、腰痛、手足の痛みがある(47.9%)」「寝つきが悪い、または眠りが浅い(46.4%)」「怒りやすく、すぐイライラする(41.8%)」が続く。一方、非自覚者がイメージする症状としては、「顔がほてる(41.3%)」、「汗をかきやすい(38.4%)」が高く、いわゆるホットフラッシュの印象が強い。次いで、「怒りやすく、すぐイライラする(34.0%)」が続き、これまでの3つの症状だけが3割を超えていた。4番目に高い「くよくよしたり、憂うつになることがある」は18.8%と、3番目に高い「怒りやすく、すぐイライラする」より10ポイント以上低く、上位3つの症状にイメージが偏っているようだ。

非自覚者がイメージするこの3つの症状に限れば、自覚者も4割前後が経験しており、非自覚者のイメージが近いと言えるかもしれない。しかし、それ以上に「疲れやすい」「肩こり、腰痛、手足の痛み」等を経験しており、自覚者が経験したことがある症状と合致していない症状が多い。
更年期症状を自覚している人に、過去を振り返って症状を自覚していなかった頃、更年期症状としてどういった症状をイメージしていたかを尋ねると、やはり「顔がほてる」「汗をかきやすい」「怒りやすく、すぐイライラする」の順に高くなっていた(図表略)。

3――更年期に起きうる症状は多種多様

3――更年期に起きうる症状は多種多様

以上のとおり、女性の更年期症状として、非自覚者がイメージする症状は「顔がほてる」「汗をかきやすい」「怒りやすく、すぐイライラする」の3つのみに偏っていた。更年期症状を経験した人も、かつては同様のイメージを抱いていた。しかし、実際、更年期症状自覚者の症状は、「疲れやすい」が半数を超えてもっとも高い。次いで「肩こり、腰痛、手足の痛みがある」「寝つきが悪い、または眠りが浅い」「怒りやすく、すぐイライラする」が続いていた。非自覚者がイメージする3つの症状は、自覚者も4割前後が経験しているが、それ以上に「疲れやすい」「肩こり、腰痛、手足の痛み」を持っている割合は高いほか、3つの症状と同等に多くの症状があり、イメージと実際は異なっていた。

更年期症状として経験した割合が高い「疲れやすい」「肩こり、腰痛、手足の痛み」は、更年期以外にもあり得る症状で、更年期症状としてイメージしてきた症状と異なるため、本人も、それが更年期症状であると気づきにくい可能性が考えられる。更年期症状にはどういったものがあり得るか、知っておく必要がある。「疲れやすい」や「肩こり、腰痛、手足の痛みがある」「寝つきが悪い、または眠りが浅い」などは、疲労などを要因とするものであれば、身体を休めたり、生活習慣を見直すことやストレッチで解消してきるかもしれないが、仮にその症状が更年期症状であるとすれば、身体を休めるだけでなく、医療機関で適切な治療を行う方が早期に症状を軽減できる可能性がある。今回の調査では、40~50歳代で、何らかの症状を自覚していても医療機関を受診していたのは1/4程度に留まっていたが、日々の生活に影響があるようであれば、医療機関を受診することを考慮するのが良いだろう。

また、今回の調査では、女性のみを対象としているが、男性を含めて、周囲の人々がイメージする更年期症状も今回の結果の非自覚者がイメージする症状と近いと考えられる。女性が自分の体調不良を周囲に訴えたり、周囲の人が医療機関の受診を勧める場合に、症状に対するイメージに偏りがあることで話をしづらかったり伝わりにくい可能性も考えられる。女性自身はもちろん、周囲の人も、更年期症状は多様であることを知っておくことが肝要だろう。
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