ふるさと納税において寄付金の使途は重要と考えられている。返礼品にばかり注目が集まる中、使途にも注目が集まるよう何らかの取り組みが必要だといった議論がある
4。実際、寄附金の募集時に使途を明確化したり、活用した事業の成果を公表したりするなどの工夫を行うことが望ましいと考えられており、通知等を通じて総務省から地方公共団体に働きかけられている。このような動きかけもあり、使途を選択できる地方公共団体が全体の97.7%にまで及ぶ。
ふるさと納税制度の検討段階から、募集時における使途の明確化や、寄付金の使途状況の報告が好ましいという考えはあった。しかし、「地方公共団体に対し寄付を行う納税者は、基本的に自分の寄付金がどのように使われるかという点に強い関心を持っている」という大前提の下、募集時における使途の明確化や、寄付金の使途状況の報告は、寄付者の「志」に応えるために望ましい対応と考えられていた
5。つまり、元々使途に興味のない寄付者に関心を持たせるための手段ではないのである。
返礼品の出現により、ふるさと納税制度の検討段階では想定していなかった「使途に関心を持たない寄付者」が大半を占めることとなった。こうした状況の中、デフォルトや使途の表示順に左右される寄付者が多いことを示唆する2章の結果は、募集時に使途を明確化した上で、選択できるようにしたところで、寄付者の使途に対する関心を高める効果は極めて限定的であることを示している。
馬を水辺に連れていくことができても、水を飲ませることは難しいように、使途に関心のない寄付者に寄付金の使途に関心を持たせることも容易ではない。使途に関心を持つことでわかりやすいメリットがあれば良いのかもしれないが、返礼品よりもわかりやすいメリットを寄付者に用意することもなかなか難しい。返礼品に対する過度な注目を是正し、使途にも注目を集める必要があるならば、募集時における使途の明確化や、寄付金の使途の状況などを公表にとどまらず、何らかのルールチェンジが必要なのかもしれない。
3章に示す通り、意図的か否かに関わらず、地方公共団体が提示する使途のラインナップや表示順、ポータルサイトのシステム設計等によって、寄付者の使途が大きく左右されている。このため、今後使途を指定する寄付の割合が増えたとしても、これをもってふるさと納税の本来の趣旨に沿っているなどと判断することはできないであろう。本来の趣旨に沿っているか、またふるさと納税制度が寄附文化の醸成に寄与しているかを定量的に確認する為には、ふるさと納税制度の検討段階で想定していたような寄付の規模を把握するためのデータが不可欠となる。
目標金額、募集期間等を定め、特定の事業にふるさと納税を募る「クラウドファンディング型」の寄付総額は、一定程度参考になると考えられるが、返礼品を目的として寄付先を選択した結果、「クラウドファンディング型」の使途が最初に表示されているケースなどもあり、全てがふるさと納税制度の検討段階で想定していたような使途に関心の高い寄付とは限らない。残念ながら、使途を目的とした寄付か、返礼品を目的とした寄付かを見分ける明確な基準はないので、返礼品を求めない寄付総額や、これに返礼品があっても被災地の地方公共団体に対する寄付を合算した値など、多面的なデータの収集と公表が望まれる。
4 第212回国会 参議院 外交防衛委員会 第3号 令和5年11月14日 参照
5 「ふるさと納税研究会報告書」 平成19年10月参照