日銀短観(3月調査)~景況感の動きは限定的、設備投資計画は堅調維持、値上げ継続姿勢が示唆される

2024年04月01日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 3月短観では、注目度の高い大企業製造業で4四半期ぶりの景況感悪化が示された。品質不正問題に伴う大規模な自動車生産停止の影響が現れた。一方、大企業非製造業では、株高による資産効果やインバウンド需要増加などが支えとなり、景況感の堅調な推移が示された。
     
  2. 先行きの景況感は総じて悪化が示された。大企業製造業では、自動車生産回復の遅れや中国など海外経済の減速懸念が一定の重石となったと考えられ、景況感が弱含んだ。一方、大企業非製造業では、物価上昇に伴う国内消費の腰折れや人手不足の深刻化などへの警戒感が台頭し、先行きに対してかなり慎重な見方が示された。
     
  3. 2023年度の設備投資計画(全規模)は前年比10.7%増に下方修正されたが、伸び率は直近10年間で2番目の高水準に当たり、引き続き堅調な投資計画と言える。また、今回から新たに公表された2024年度の設備投資計画(全規模)は前年比で3.3%増となった。収益回復を受けた投資余力の改善に加え、脱炭素・DX・省力化・供給網再構築等に向けた投資需要がプラスに働いたとみられ、近年では23年度3月調査に次ぐ高い伸び率からのスタートとなっている。
     
  4. 物価関連項目では、販売価格判断DIの先行き(3か月後)が総じて高止まったほか、企業の物価全般の見通しが各期間(1~5年後)ともに日銀の物価目標である2%を上回る水準が維持され、企業の販売価格の見通し(同)も前回から上方修正されるなど、物価関連項目は総じて高止まりとなっており、企業による値上げ継続姿勢が示唆されている。
     
  5. 今回の短観では、堅調な設備投資計画や(値上げ継続に繋がり得る)物価関連項目の高止まり、(賃上げ圧力に繋がり得る)人手不足のさらなる深刻化などが示された。日銀にとっては「賃金と物価の好循環に伴う基調的物価上昇率上昇」への期待を繋ぐ材料になりそうだ。目先の政策変更は想定されないが、将来の追加利上げを後押しする内容と言えるだろう。

 

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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