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曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その3)-カテナリー曲線-
2024年01月16日
(中村 亮一)
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カテナリー・アーチが観察される例
先に述べたカテナリー曲線の性質により、カテナリー曲線を逆にしたアーチ状の形状は、重力と両サイドからの圧縮力とがバランスした形となり、力学的に安定したものとなる。また、この形状を使えば、大きな空間を少ない柱で支持できることになる。
これにより、この「カテナリー・アーチ」は多くの建築物等で利用されている。
・東京都渋谷区にある「
代々木第一体育館
」は、丹下健三氏の設計によるつり屋根構造が特徴の建築物で、1964年に竣工し、1964年の東京オリンピックの会場として使用された。この屋根がカテナリー曲線を組み合わせた形になっている。これにより、内部の床面に柱のない空間を可能にしている。
・山口県の岩国にある「
錦帯橋
」は、カテナリー・アーチ構造の美しい形状の橋として有名である。
・寺社の屋根に見られる軒先が反り上がった形状を「
軒反り(のきぞり)
」というが、この部分にカテナリー・アーチが使用されているケースが多くみられる。例えば、横浜市にある「
貞昌院
」の屋根がカテナリー曲線だと言われている。
・スペインのバルセロナにある有名な「
サグラダ・ファミリア教会
」や集合住宅の「
カサ・ミラ
」の一部において、カテナリー・アーチが使用されている。なお、アントニ・ガウディの建築においては、しばしばカテナリー曲線が使用されていると言われているが、その多くは放物線の形状になっているようである。
・米国のセントルイスのシンボルとなっている「
ゲートウェイ・アーチ
」も、元々はカテナリー・アーチとなる予定であったが、頂上付近で幅が狭くなっており、「
加重カテナリー
(weighted catenary)」と呼ばれる、より一般的な曲線(これは、y=a cosh (bx)で表され、ab=1の場合がカテナリーとなる)に近くなっているようだ。こうすることにより、わずかに遠近感を出してアーチが高くそびえたっているように見せる効果を狙うとともに、地表に近いほうにより重量を配分してアーチを構造的に安定させているとのことである。
カテナリーが観察されるその他の例
・自然界では、蜘蛛の巣の横に張られた糸も、両端の接点で支持されており、カテナリー曲線になって いる。
・因みに、McDonaldのロゴであるゴールデンアーチは、2つの放物線を結合したものを意図しているようだが、これもカテナリーに基づいているようだ。
なお、カテナリー曲線は、その形状の美しさから、アート作品等でも使用されている。
最後に
今回は、「カテナリー曲線」について、その性質やそれらが社会等において現れてくる場面等について報告してきた。
ここまで紹介してきたように、カテナリー曲線は、建築学で幅広く利用されている。さらに、それ以外に、日常生活や一般社会において、極めて多くの機会で見かけることができるものとなっている。ただし、殆どの人は、それがカテナリー曲線だとの認識は持たずに、眺めているものと思われる。このコラムを契機に、街中を歩いている時に、ふと見かけたものが、これはカテナリー曲線なのか、あるいは放物線なのか、等と考えてみるのも興味深いかもしれない。
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中村 亮一
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