逆回転を始めた円相場、今後の展開は?~マーケット・カルテ1月号

2023年12月19日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

月初1ドル147円台後半でスタートした今月のドル円は、上旬に植田日銀総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言したことでマイナス金利の早期解除観測が高まり円高に。さらに中旬のFOMCにおいて、パウエルFRB議長が利下げの議論を認めたことなどからドル売りが強まり、一時140円台を付けた。足元では、日銀が金融政策を維持したことを受けて143円台半ばに戻したが、月初比では大幅な円高だ。従来、「利上げを模索するFRBと緩和を継続する日銀」というコントラストが円安の原動力となってきたが、逆回転が始まった形だ。

今後も長い目で見た場合は、米利下げ(観測)をメインテーマとした円高ドル安基調が見込まれる。来春と目される日銀の金融政策正常化観測も円高をサポートする材料になる。ただし、金利先物市場が米利下げについて「3月に開始、来年中に6回(0.25%換算)実施」を織り込んでいるように、足元の市場は米利下げを前のめり的に織り込んでいるため、遠からず、一旦揺り戻しのドル高局面を挟む可能性が高い。従って、3カ月後は現状比小幅な円高に留まり、142円前後と予想している。

1ユーロ161円台でスタートした今月のユーロ円も下落し、足元では156円台後半で推移している。ドル円同様、植田総裁発言が円高材料になったほか、ハト派的な高官発言などを受けてECBの利下げ観測が高まったことがユーロを下押しした。今後も長い目ではECBの利下げ(観測)を主因とした円高ユーロ安基調が見込まれる。ただし、足元では、ドル円同様、ECBの利下げが前のめり的に織り込まれているとみられるため、一旦揺り戻しのユーロ高局面を挟むと見ている。3カ月後は現状比小幅安に留まり、155円前後と予想している。

月初0.7%台付近でスタートした長期金利は、米利下げ観測に伴う金利低下圧力と日銀の早期正常化観測に伴う金利上昇圧力が交錯して方向感を欠き、足元も0.6%台後半にある。今後も両材料を巡る思惑が交錯して方向感の出にくい展開が想定されるが、当面は米景気の減速感が抑制要因になる。一方、春が近づくにつれて日銀の正常化が秒読み段階となり、金利上昇圧力が一段高まることで、3ヵ月後の水準は現状比でやや上昇の0.8%台と予想している。
 
(執筆時点:2023/12/19)

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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