日銀短観(12月調査)~景況感は改善したが、先行き懸念は強め、人手不足感はコロナ前ピークに到達

2023年12月13日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

4.売上・利益計画:23年度収益は上方修正、小幅な増益計画へ転じる

2023年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比2.5%増(前回は1.9%増)、経常利益が4.0%増(前回は同2.7%減)とそれぞれ上方修正された。例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられて前年比で小幅なマイナス圏でスタートし、6月調査で比較対象となる前年度分の上方修正などを受けてやや下方修正されるが、9月調査以降は、景気が悪化していない限り、上方修正が続く傾向が強い。

今回も同様のパターンとなり、上期を無難に通過したことでもともと保守的ぎみであった想定を上方修正する動きが出たと考えられる。現に半期で見た場合、上期分の利益が大幅な上方修正となった一方、下期分は小幅に下方修正されている。

実態としては、インバウンドの回復も含めた経済活動再開の継続や、供給制約の緩和、円安による輸出採算の改善、価格転嫁の進展などが押し上げ材料になったとみられる。ただし、海外経済の減速や原燃料価格の再上昇、物価上昇による消費の減速といった下振れリスクが残るため、引き続き慎重めな計画を据え置いている企業も多いと推測される。
 
なお、2023年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は139.35円(上期138.73円、下期139.97円)と、前回(135.75円)から4円弱円安方向に修正されたが、上期の実績(141円台)や足下の実勢(145円台)からは依然としてかなり円高の想定に留まっている。短観の想定為替レートは修正に時間がかかる傾向があるうえ、先々、米国の利下げや日銀のマイナス金利解除観測などによって円高が進むリスクもあるため、輸出企業などでは保守的な観点から円高気味の想定を維持しているとみられる。今後もドル円レートが想定を上回り続ければ、輸出企業を中心に想定為替レートに円安方向への修正が入り、収益計画の上方修正要因になるだろう。

5.設備・雇用

5.設備・雇用:設備投資計画は若干下方修正、人手不足感はさらに強まる

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲2となった。設備の需給は概ね均衡ながら、若干不足ぎみの状況が続いている。

一方、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から2ポイント低下の▲35となった。コロナ禍で一旦縮小したDIのマイナス幅は、コロナ禍前のピーク(2018年12月調査・2019年3月調査の▲35)に到達した。人手を多く要する対面サービス需要の回復を受けて人手不足感がさらに強まってきている。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均DI」(設備・雇用の各DIを加重平均して算出)も前回から1.7ポイント低下の▲22.9となり、コロナ禍前のピークに迫っている。
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲3、雇用人員判断DIが▲38とそれぞれ1ポイント、3ポイントの低下が見込まれており、経済活動の正常化を見据えたものとみられるが、雇用を中心に不足感がさらに強まる見通しになっている。雇用に関しては、上記のコロナ禍前ピークを越え、バブル期以来の人手不足感になることが見込まれている。

この結果、「短観加重平均DI」も▲25.1と足元から2.2ポイント低下する見込みとなっている。
 
2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比12.8%増となり、前回9月調査(13.0%増)から若干下方修正された。

例年12月調査では、中小企業において年度計画が固まることで投資額が上乗せされる傾向が強い4うえ、資材価格や人件費の上昇を受けて、投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になったとみられる5。既往の収益回復を受けた投資余力の改善、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要もプラスに寄与したとみられる。一方で、建設領域における人手不足や先行きの事業環境の不透明感が重荷となり、今回は下方修正されたと見ている。

ちなみに、下方修正されたとはいえ、12月調査における前年比12.8%増という伸び率は、バブル期後では昨年度に次ぐ高水準に当たり、引き続き堅調な投資計画と言える。
 
2023年度設備投資計画(全規模全産業で前年比12.8%増)は市場予想(QUICK 集計12.3%増、当社予想も12.3%増)をやや上回る結果だった。
 
2023年度のソフトウェア投資計画(全規模全産業)は前年比13.6%増となった。前回から1.5ポイント下方修正されたものの、引き続き高い伸びが示されている。企業において、オンライン需要への対応や省力化等に向けた業務のIT化といったデジタル化が加速している証左とみられ、前向きな動きと言える。特に人手不足感の強い中小企業では2割を超える伸びが示されており、旺盛な省力化需要が計画の支えになっていると推測される。
 
4 2013~22年度における12月調査での修正幅は平均で+0.6%ポイント
5 GDP統計における設備投資デフレーター(四半期次)は2021年終盤以降、前年比3~4%台で推移。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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