日銀短観12月調査では、大企業製造業・非製造業ともに景況感の改善が示された。日本経済ならびに事業環境が緩やかな改善基調にあることが示唆されている。大企業製造業では、中国経済の回復の遅れが一定の重石となったものの、引き続き供給制約緩和に伴う自動車の生産回復や円安が追い風となり、業況判断DIが12と前回9月調査から3ポイント改善した。景況感の改善は3四半期連続ということになる。また大企業非製造業では、物価高による消費抑制や人手不足感が逆風となったものの、経済活動正常化に伴うサービス需要やインバウンド需要の回復持続、価格転嫁の進展による好影響が勝り、業況判断DIが30と前回比で3ポイント上昇した。
ちなみに、前回9月調査
1においては、大企業製造業では自動車での供給制約緩和や円安進行などを受けて、非製造業では経済活動再開の流れが続いたことを受けて、それぞれ景況感が明確に改善していた。
今回調査では、供給制約緩和に伴う自動車生産の回復継続が大企業製造業にとって追い風となった。自動車は産業の裾野が広いだけに、幅広い業種にその好影響の波及がうかがわれる。また、円安の進行も加工業種を中心に景況感改善に寄与した。一方で、化学などでは中国経済の回復の遅れが景況感の抑制に働いた。
大企業非製造業では、長引く物価上昇による消費の抑制圧力や相対的にも強い人手不足感が重石になったものの、経済活動正常化に伴うサービス需要やインバウンド需要の回復継続が景況感の支えになった。インバウンド需要については、円安の進行もプラスに働いている。また、価格転嫁が進展したことも小売などを中心に追い風になったと考えられる。
中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から6ポイント上昇の1、非製造業が2ポイント上昇の14となった。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感の改善が示されている。
先行きの景況感については総じて悪化が示された。製造業では、これまで堅調を維持してきた米国経済の減速とそれに伴う円高、中国経済の回復のさらなる遅れなどへの警戒感が優勢になったとみられる。
また、非製造業では、物価高に伴う国内消費の腰折れや人手不足の深刻化、原材料価格の再上昇などへの警戒感が台頭し、先行きに対する慎重な見方が示された。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元の景況感が市場予想(QUICK集計予測値10、当社予想は11)をやや上回った一方、先行きの景況感は予想(QUICK集計予測値9、当社予想は8)を若干下回った。大企業非製造業についても、足元の景況感は市場予想(QUICK集計27、当社予想は26)を明確に上回ったものの、先行きの景況感は市場予想(QUICK集計25、当社予想は23)を若干下回っている。
2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比12.8%増となり、前回9月調査(13.0%増)から若干下方修正された。
例年12月調査では、中小企業において年度計画が固まることで投資額が上乗せされる傾向が強い
2うえ、資材価格や人件費の上昇を受けて、投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になったとみられる
3。既往の収益回復を受けた投資余力の改善、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要もプラスに寄与したとみられる。一方で、建設領域における人手不足や先行きの事業環境の不透明感が重荷となり、今回は下方修正されたと見ている。
ちなみに、下方修正されたとはいえ、12月調査における前年比12.8%増という伸び率は、バブル期後では昨年度に次ぐ高水準に当たり、引き続き堅調な投資計画と言える。
ただし、足元にかけての設備投資の実勢は勢いを欠く状況が続いているだけに、実現可能性には留意が必要だ。今後、次回調査以降で大きめの下方修正が入るリスクも燻っている。
注目された販売価格判断DI(大企業)については、仕入価格の上昇鈍化を受けて、総じて足元で販売価格への転嫁の勢いがやや和らいでいる。
先行きも製造業では仕入価格上昇の勢いが和らぎ、販売価格の上昇圧力も後退することが想定されている。一方、大企業非製造業や中小企業では、今後の仕入価格上昇見込みやこれまでの価格転嫁の遅れを背景に、販売価格引き上げの勢いをやや加速する方針が示されている。
なお、価格判断と関連して、企業の物価見通し(全規模)は引き続き高止まりしており、各期間ともに日銀の物価目標である2%を上回った状況が維持されている。実際の物価上昇率が未だ2%を大きく上回る水準で推移していることが作用しているとみられ、今後の企業の価格・賃金設定への影響が注目される。
植田日銀総裁が今月7日の参院財政金融委員会で、「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言したことを受けて、一部で早期のマイナス金利解除観測が燻っている。
しかしながら、日銀は現在も、「賃金の上昇を伴うかたちでの 2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていない」との基本見解を維持しているとみられ、金融政策の正常化に向けて、当面はその実現可能性を吟味すると予想している。
今回の短観では、先行きの景況感悪化など懸念材料はあるものの、足元の景況感改善や設備投資計画の高い伸びに加え、価格転嫁圧力の残存や予想物価上昇率の高止まりも示された。全体的に見れば、今回の短観は日銀が金融政策の正常化に向けて自信を強める材料になり得るだろう。
ただし、物価目標達成判断の最大のカギとなるのは、やはり来春闘での賃上げ情勢とみられることから、今回の短観が正常化の決め手になるとまでは考えにくい。正常化に舵を切るのは、来春闘結果の大勢が見えてきた来年4月と予想している。
1 前回9月調査の基準日は9月12日、今回12月調査の基準日は11月27日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
2 2013~22年度における12月調査での修正幅は平均で+0.6%ポイント
3 GDP統計における設備投資デフレーター(四半期次)は2021年終盤以降、前年比3~4%台で推移。
2.業況判断DI