政権交代の可能性が有力視されていることから、10月8~11日に開催された労働党大会は注目を集めた。スローガンとして、英国の未来を取り戻す("Let’s get Britain’s future back")を掲げ、スターマー党首は、総選挙のマニフェストの根幹を形成する5つの大胆な使命
6として「より高い生活水準のための成長」、「クリーンエネルギーのスーパーパワー」、「未来に適合するNHS」、「安全な街路、強化された警察」、「機会に対する障壁の打破」を示した。
EUとの関係については、労働党大会に先だって、スターマー党首は、単一市場、関税同盟、EU再加盟は否定した上で、EUとの協定であるTCAを、25年の見直しのタイミングで改善する方針を表明している(図表2)。
財政運営に関しては、レイチェル・リーブス影の財務相の講演の内容が注目された
7。同氏は、BOE出身のエコノミストであり、演説では、効率性重視のグローバリゼーションを批判、経済安全保障の強化を訴え、リスク軽減への政府の役割について論じた。
財政ガバナンスについては強化する方針を示している。BOE、OBR、公務員の独立性を守り、新たな「予算責任憲章」と新たな財政ロックを打ち出す。保守党政権が立ち上げた機構であるOBRの役割については、「成長計画2022」のようなことが二度と起きないよう、「大幅かつ恒久的な税と支出の変更を行う場合、OBR からの独立した予測の対象となることを法律で確保する」方針である。
財源の確保策としては、ハイテク大手、エネルギー企業への課税強化、非所得者資格(non-dom status=英国外での収入、財産、預金金利収入に対する納税義務免除資格)廃止などを挙げた。
格差是正の対策として、「ゼロ時間契約(=週あたりの労働時間が明記されない形で結ばれる雇用契約)」を禁止する労働者向け新契約、私立学校への付加価値税と事業税免除を終了し、財源を公立学校にいる93%の子供のために活用する方針なども示された。
さらに、「不正、無駄、非効率との戦い」として挙げたのが、閣僚によるプラーベート・ジェットの利用の抑制、政府機関によるコンサルタント会社の利用半減と費用対効果の実証、コロナ禍での不正利益の追求である。保守党の党大会で発表されたHS2の延伸計画の中止は、コスト管理の問題にあるとして、他の主要な計画についても独立した専門家による調査を行う方針などを示した。
停滞が続く民間投資の喚起策として打ち出したのが、新たな「国富基金(National Wealth Fund)」の設置である。同基金では「1ポンドに対して3倍の民間投資を活用する」という目標を設定するという。
仮に、次期総選挙で政権交代に至ったとしても、根強いインフレ圧力、グローバルな環境の変化、厳しい財政事情という制約は変わらない。外交・通商・安全保障政策面も含めて、大きな軌道修正は難しいと思われる。