1ドル150円を巡る攻防の行方は?中東情勢は波乱要因に~マーケット・カルテ11月号

2023年10月23日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

月初1ドル149円台でスタートしたドル円は膠着した展開が続き、足元も149円台で推移している。米金融引き締め長期化観測や国債需給の悪化を背景に米長期金利が急上昇してドル高圧力が強まったが、円買い介入への強い警戒感が150円台の定着を阻んでいる。

従って、今後も米金利上昇によるドル高圧力と介入(警戒感)による円安抑制圧力のバランスがポイントになる。当面はFRBがインフレへの警戒を緩めず、ドル高圧力が強い状況が続くとみられ、150円を突破することも十分想定される。ただし、150円を突破すれば、短期的にまとまった値動きが発生した段階で、「過度の変動を抑える」という口実を得た政府が円買い介入に踏み切り、(時間稼ぎに過ぎないとはいえ)円安抑制に寄与すると予想している。日銀によるマイナス金利やYCCの早期解除は見込んでいないが、仮に解除されたとしても、金利抑制スタンスが継続されることで影響は限られるだろう。

12月中旬のFOMC後は、米景気減速感の台頭とインフレの鈍化を受けて米利上げ打ち止め観測が浸透し、ドルが下落しやすくなると見ている。3か月後の水準は145円前後と予想している。

なお、イスラエル情勢はドル円の波乱材料だ。仮にさらに緊迫化して原油価格が急騰する場合、米金融引き締め長期化観測によるドル高圧力に加え、有事のドル買いや本邦貿易赤字拡大による円売りにより円安要因になる可能性が高い。ただし、安全資産への逃避に伴う米金利低下やリスクオフの円買いが優勢になれば、円高要因にもなり得る。

今月のユーロ円も方向感を欠く展開となっており、足元では158円台にある。独経済指標の改善がユーロの下値を支える一方、介入への警戒感が円の下値を支えた。3ヵ月後にはECBによる利上げの打ち止め感が市場で確立され、155円前後に弱含むと予想している。

月初0.7%台後半でスタートした長期金利は、足元で0.8%台半ばにまで上昇している。米金利の上昇が波及したほか、日銀金融政策の早期正常化観測が強まったことが背景にある。今後も日銀の正常化観測が燻りたびたび金利上昇圧力になるものの、日銀は容易には動かないと見ている。さらに、12月には米利上げ打ち止め観測に伴う米金利低下の波及も見込まれる。従って、3ヵ月後の水準は現状比で若干低下の0.7%台と見込んでいる。
 
(執筆時点:2023/10/23)

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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