生物多様性(biodiversity)という造語は、その名前通り、「いろいろな大きさの生態系(現在最も広くは地球全体)に、多様な生物が存在していること」を指す。最近多く耳にするようになった気もするが、実は1970年代から使われている用語である。
1992年に開催された、環境と開発に関する国際連合会議(いわゆる地球サミット)における「生物多様性条約」の中では、生物多様性は以下のように定義されている。
「全ての生物 (陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息または生育の場の如何を問わない。) の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性および生態系の多様性を含む」
つまり、多様性にも段階があり、
・遺伝的多様性(1つの種の中でも遺伝子が多様で、形、模様などに個性がある。)
・種の多様性(多くの種が存在する。)
・生態系の多様性(森林、河川、干潟などいろいろな自然がある。)
がある。
日本は、この条約の締約国となり、条約上の義務を果たすため、1995年に生物多様性国家戦略を策定し、2008年に「生物多様性基本法」が公布されているが、その中の定義では
「この法律において「生物の多様性」とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することをいう」 (生物多様性基本法第2条)
とある。生物学的には厳密な定義が必要とされるところだろうが、法律の上では比較的漠然とした表現とされているようだ。さしあたっては、われわれもこの程度の理解で進めても充分だろう。
ところで、ここでは簡単に「種」という言葉がでてくるが、これは生物を大項目
1から分類していった時の最も細分化された段階の生物の種類の数である。実際には、種の総数というのははっきりしていない。人間にとって未発見のものもある。そうしたものも含めて500万~3000万とも言われている。
そのうち(たった)15万種を国連で調査したところ、その4分の1近くの約4万種が絶滅危惧種であったという。そのことから推測して、ざっと100万種のオーダーで絶滅の危機にあるのではないかといわれている。
だからといってこれだけで異常事態だということにはならない。地球上では数十億年の間に新たな種も生まれ、(人間など存在する前から)種の大量絶滅は通常5回あったとされ、現在は「第6の大量絶滅」と言われている。
生物多様性が危機に直面する原因にはいくつかある。過去5度の絶滅の要因としては、隕石の衝突、火山の噴火、あるいはそれによる寒冷化などの複合要因と考えられている。
ところが、現在の状況は、人間による開発や乱獲によるものもある上に、気温上昇など地球環境の大きな変動が原因といわれており、気温上昇も人間の様々な活動による影響が大きいとされている。
(地球温暖化については、気候関連リスク等への対応でも検討されているが、生物多様性と当然密接に関係する。)
1 代表的な分類方法として、例えば大きい方から、界、門、綱、目、科、属、種とある。人間は、動物(界)、脊椎動物(門)、哺乳(綱)、霊長(目)、ヒト(科)、ヒト(属)ヒト(種)ちなみに、ヒト科にはゴリラ、チンパンジー、オランウータンなどがいる。
2――なぜ生物多様性を守らなければならないのか