乱高下するドル円、存在感を増す日銀~マーケット・カルテ8月号

2023年07月20日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

今月月初に1ドル144円台半ばでスタートしたドル円は、中旬から急速に円高方向へ動いた。米国において雇用統計の雇用者数やCPI、PPIが軒並み予想を下回り、FRBによる利上げ長期化観測が後退したうえ、内田副総裁の発言や展望レポートでの物価見通し上方修正を巡る報道などを受けて日銀による月内のYCC修正観測が高まったことで、先月末にかけて進んだ円安の巻き戻しが発生したためだ。一時は137円台半ばまで円高が進行した。一方、足元では植田総裁発言を受けてYCC修正観測がやや後退し、1ドル139円台前半に戻しており、方向感を欠く展開となっている。

米国の物価上昇率は鈍化基調にあるものの、FRBのインフレに対する警戒感は強く、月内の利上げ後も追加利上げに含みを残すだろう。市場では秋にかけて追加利上げ観測が燻り、ドル高圧力が残りそうだ。一方で、国内の物価上昇率の高止まりや賃金上昇などを受けて日銀による早期のYCC修正観測も存続し、円の下値を支える可能性が高い(筆者は10月会合での修正を予想)。日米の金融政策を巡る思惑が交錯する結果、3ヵ月後の水準は現状比で概ね横ばいになると予想している。

1ユーロ157円台後半でスタートした今月のユーロ円は、足元で156円台前半とやや弱含んでいる。ECBの利上げ長期化観測がユーロの追い風となったが、日銀によるYCC修正観測に伴う円高圧力が上回った。ECBは今月も追加利上げに動くうえ、以降も追加利上げ観測は残るだろう。ただし、ECBによる年内複数回の利上げは既に市場の織り込みが進んでいるとみられ、投機筋のユーロ買い越しも高止まりしているため、今後は一旦利益確定的なユーロ売りが入ると予想。日銀のYCC修正観測も重石となるため、3ヵ月後の水準は155円前後と見込んでいる。

0.4%付近でスタートした長期金利は日銀によるYCC修正観測を受けて一時0.4%台後半に上昇し、足元でも0.4%台半ばで推移している。今後も国内の物価上昇率の高止まりや賃金上昇などを受けて市場では早期のYCC修正観測が存続するだろう。米利上げ観測が燻ることで米金利も高止まりが予想される。これらを受けて(国内)長期金利は高止まり、3か月後の水準は0.4%台後半になると予想している。
 
(執筆時点:2023/7/20)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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