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パロンドのパラドックス-負けるゲームを組み合わせると、勝つゲームに変わる !?

2023年06月20日

(篠原 拓也) 保険計理

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◇ ゲームCとゲームDを50%ずつの確率で組み合わせると、勝つゲームに変わる!?

それでは、ゲームCとゲームDを組み合わせるとどうなるか。確率を加味して、50%ずつの確率でゲームCとゲームDを組み合わせることにする。具体的には、表と裏の出る確率が50%ずつの公正なコインを振って、表が出たらゲームC、裏が出たらゲームDを行う。これを繰り返して行う。
 
先ほど、ゲームDで行った定常状態の検討と同じことを行う。ゲームCとゲームDの組み合わせのゲームで、定常状態を考えて、そのときに、所持金が3の倍数となる状態の割合をy0、3の倍数+1となる状態の割合をy1、3の倍数+2となる状態の割合をy2とおいてみよう。
 
すると、連立方程式を立てて、それを解くことで、y0=0.345、y1=0.254、y2=0.401と計算できる。
 
この定常状態から、つぎの1回のゲームで獲得できる金額は、

y0×(9%-91%)+y1×(74%-26%)+y2×(74%-26%)= 0.006

と計算でき、平均して毎回0.006ドル受け取ることとなる。
 
実際には、毎回のゲームの結果しだいで、ドルの受け取りや支払いがあり、状態が変わるわけだが、定常状態をもとに平均的な獲得額を計算すると、平均的にプラス、つまり受け取りとなるわけだ。すなわち、ゲームCとゲームDの組み合わせのゲームは勝つゲームといえる。

◇ 勝つゲームと負けるゲームの間には境界がある

ゲームDで、所持金が3の倍数のときの勝つ確率を横軸、3の倍数でないときの勝つ確率を縦軸として、次のような「勝つゲーム」のゾーンと「負けるゲーム」のゾーンを描くことができる。両者の間には、境界がある。
ゲームC、ゲームDをプロットすると、いずれも境界線の下側の「負けるゲーム」のゾーンに位置している。
 
しかし、ゲームCとゲームD組み合わせたゲームは、境界線の上側、すなわち「勝つゲーム」のゾーンに位置する。境界線のたわみによって、2つの負けるゲームの組み合わせから、勝つゲームが生まれたといえる。

◇ 負けるゲームだからといって簡単にあきらめるべきではない

以上、2つの負けるゲームを組み合わせると、勝つゲームに変わることがあることを見てきた。
 
ただ、ゲームAとB、ゲームCとDは、筆者が作為的に作ったものだ。実社会で、このようなことが起こることはめったにないだろう。
 
だが、負けるゲームだからといって簡単にあきらめるべきではないともいえる。「もしかしたら、負けるゲーム同士を組み合わせたら、勝つゲームに変わるかもしれない」といった、ポジティブな気持ちをもって臨めば、自ずと勝機が開かれることがあるかもしれない。
 
何かのゲームのプレーヤーに立った時には、「パロンドのパラドックス」を思い出してみると役に立つこともあるだろう。

(参考資料)
 
"Efficiency of Brownian Motors" J.M.R. Parrondo, J.M. Blanco, F.J. Cao, and R. Brito (Universidad Complutense de Madrid, Spain, 1998)
 
"Parrondo's Paradox"G. P. Harmer and D. Abbott (Statistical Science, Vol. 14, No. 2, 206-213, 1999)
 
「直感を裏切る数学 - 『思い込み』にだまされない数学的思考法」神永正博(ブルーバックス B-1888, 講談社, 2014年)
 
「確実に損をする2つゲームから利益を得る『期待効用理論』とは何か?-分散投資からジャイアンの性格分析まで」川越敏司(現代ビジネス, 2020年10月27日)
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