一方、再分配機能の1つとしての税制はどうであろうか。中国の2022年の税収入の構成を見ると、直接税(個人所得税・企業所得税)の構成比は36.1%と小さく、そのうち個人所得税についてはわずか8.6%にとどまっている
16。この点からも国が税を通じて個人や企業の所得を再分配できる力が弱い状況にあることが分かる。袁(2015:140)
17は、中国の税制が一般的に所得の高い人にできる限り税金を多く負担してもらうという「垂直的公平」を図ることが難しく、逆に所得の多寡に関係なく一律負担するような間接税の割合が高いとしている。また、税負担の転嫁が水平的に実現しやすいため格差を是正するどころか、むしろ低所得者に重い税負担を強いてしまう恐れがある点を指摘している。この点からも、高額な所得を得る者から所得の少ない者への再分配を確保するには、個人所得税の累進性を高めるなど応能税の徴収強化が必要となろう。また、現在一部地域で施行している固定資産税(不動産税)や、今後は相続税といった新たな制度の検討も必要になるであろう。
社会保険料の徴収強化、税制改革に加えて、そこから得られた財源をどう分配していくのかも重要となる。
雍(2011)
18は、家計所得(賃金+財産収入+移転収入)から所得格差の要因分解をしている。家計所得のうち、所得の不平等への寄与度が圧倒的に大きいのは賃金としており、移転収入がそれに次いでいるとした。よって、雍は中国において所得格差を是正するためには賃金格差の是正が重要としている。それには所得税の累進性を高め税収を確保することも重要であるが、それを移転支出によって貧困層へ生活保護の形で給付することで所得格差を大きく是正することができるとしている。つまり、所得税の累進性を高めると同時に移転支出を通じた分配の組み合わせが重要としている。
また、広く再分配効果をもたらす上では現行の社会保険制度の給付構造の改革も視野に入れるべきであろう。例えば、公的医療保険に設定された免責額(各都市が決定した一定額までの医療費が全額自己負担)や給付に限度額を設ける制度など、段階的な緩和の検討が可能だ。
このように、共同富裕の実現に向けて再分配機能を活用する上では、社会保険料の徴収を強化し、税制および社会保障制度の構造改革や給付の見直しが必要となる。更に考慮すべきは、今後急速な高齢化とともに社会保障に関する再分配の多くが高齢者の所得改善に向かう可能性がある点である。中国の現役世代の多くは一人っ子世代で、自身の両親の老後保障を抱え、高騰する生活費、自身の子どもの教育費など多くの経済的なコストを負担している。政府は3人目の出産許可という事実上の出産奨励策にシフトチェンジしているが、出産奨励の手当や子育て支援の拡充などは追いついていない状況にある。そういった現役世代に向けたサポートも必要となってくるであろう。
16 中国のデータの出典はCEIC。また、日本の場合(令和4年/2022年)、国の収入(一般会計歳入(当初予算))のうち所得税の構成比は31.3%、法人税の構成比は20.4%で合計51.7%を占めている。
17 袁志海(2015)「中国における個人所得税改革と格差是正について」北陸大学紀要第40号pp.137-153。
18 雍煒(2011)「中国における所得格差の要因分析と累進所得税・再分配政策の効果」『海外社会保障研究』第177号pp.77-92。