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気候変動がもたらす不確実性が、金融機関に生じていること
銀行や保険会社には、将来の気候関連損失に備えて十分な資本を備えているかどうかについては不確実性が生じている。このことは金融システム全体も個々の会社についても監督当局がどう規制していくかについて課題があることをも示している。監督当局はリスクをできるだけ定量化し、それがリスク選好の範囲内にあるかどうかを判断する必要があり、その後の政策もそれに左右されるだろう。
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まずはそれぞれの銀行・保険会社の、能力ギャップへの対処が必要
銀行や保険会社が、十分にリスクをコントロールできるなら、必要資本も少なくて済むが、そうでないならば、十分に資本を準備する必要がある。
まずは、保険会社それぞれが気候関連リスクの特定、測定、その管理方法を発展させることで「能力ギャップ」への対処を確実にすすめていかなければならない。
3|レジームギャップへの対処
気候関連リスクは、従来のリスク分類のどこかに潜んでいるものではあるが、リスクの複雑さ、不確実性、そして前例がないかもしれない現れ方に関連しており、過去のデータが使えなかったり、予測の仕方が不明であったりする特徴がある。これを資本規制に持ち込むには、
・そのモデリングが困難であること、
・気候リスクエクスポージャーの評価に利用可能な企業や個人も含めた経済全体のデータがないこと
・財務会計への反映の仕方が存在しないために、予期される損失が反映されないこと(=資本が過大評価されてしまうこと)
などの問題がある。
気候関連開示の社会全体での基準を作成することや会計基準の整備が必要になってくる。
こうした社会・経済全体での進歩を前提として、規制当局側では、気候シナリオのベースラインやストレステストを引き続き開発していく予定としている。これらの枠組みを開発し、その結果資本要件をどう定めるかを検討する必要がある。その過程において個々の銀行・保険会社のリスク管理も進歩することが期待される。
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マクロプルーデンス
金融システム全般のレジームギャプがどんなものかについては、ほとんど何もわかっていないに等しく、今後の研究が必要である。
そこでは、気候リスクをどう評価し、企業の行動にどう影響し、どんな意図しない結果がでてくるか、それをどう緩和するかなどについて、いずれは評価していく必要がある。
気候変動リスクが今は不確実であり、社会全体としては、いわゆる「ネットゼロ」(温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標)への秩序ある移行を促進する必要があることを考慮すると、そうした状況下でマクロプルーデンス政策を調整していくことは、有意義ではあるが非常に困難な仕事である。
引き続きレジームギャップの性質と重要性を研究し、対処方針について検討することとする。
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今後の研究課題
気候関連リスクを資本規制の枠組みに取り入れることについては、イングランド銀行は広く意見募集もしているが、まだ限定された研究に留まっているようだ。上で述べたことの繰り返しにもなるが、以下のような課題について、専門家の論文を募集することも含めて、各分野の分析を進めていく。
・各会社が能力ギャップを埋める進歩を継続できるようにすること
・気候関連リスクに対する金融システムの回復力を判断する能力とツールを構築すること
・気候関連情報開示を強化する動きをサポートすること
・気候関連リスクの説明方法を洗練させること
・資本規制のレジームギャップの理解と対処
・気候変動による金融リスクを管理するための銀行及び保険会社のアプローチの強化
・各テーマについての国際的な議論に参加すること
3――(参考)銀行と保険会社の違いについて