新型コロナの予防・管理措置の分類引き下げ(中国)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(56)

2023年02月21日

(片山 ゆき) 中国・アジア保険事情

日本では、これまで新型コロナウイルスの感染症法上の分類の引き下げをどうするかが議論されてきた。1月27日には、感染症法上の分類を5月8日に5類に引き下げることを決定している1

一方、中国では昨年12月7日に感染予防対策が大幅に緩和されて以降、わずか1ヵ月で予防・管理措置の分類が引き下げられている。各地方政府が、新型コロナの治療にかかる自己負担割合をどう設定するかが焦点となっている。
 
1 日本経済新聞「コロナ5類、5月8日移行を決定 イベント上限撤廃は先行」、2023年1月27日。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA270W90X20C23A1000000/ 2023年2月1日アクセス。

1――予防・管理措置の分類を引き下げへ

1――予防・管理措置の分類を引き下げへ

中国では、伝染病予防治療法に基づいて、伝染病を感染力や重篤性の高いものから甲類・乙類・丙類の3種類に分類している2。新型コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群(SARS)と同様の「乙類伝染病」に指定されている。一方、それに伴う予防・管理措置については、ペスト、コレラで用いる最も厳しい「甲類」の措置が適用されていた。

政府は、1月8日以降、新型コロナについて、伝染病予防治療法上の分類はそのまま(乙類伝染病)にとどめつつ、予防・管理措置の分類については、それまでの最も厳しい甲類から、乙類の措置へと1段階引き下げた。

中国では、その1ヵ月前の2022年12月7日に新型コロナに対する感染予防対策を大幅に緩和している。それまで実施していたゼロコロナ政策を大幅に緩和し、感染者の病院や隔離施設への強制移送をやめ、無症状や軽症の人は自宅での隔離を認めた。更に、12月26日には、予防・管理措置を1月8日以降引き下げると発表した3。このように、予防・管理措置は社会的な議論もないままわずか1ヵ月で引き下げられることになった。
 
2 日本の感染症法(正式名称は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、感染症を一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症に分類している。新型コロナは発生当初は「指定感染症」であったが、2021年の感染症法改正で「新型インフルエンザ等感染症」に変更された。また、新型インフルエンザ等感染症の場合、新型インフルエンザ等対策特別措置法によって、全国的かつ急速にまん延し、かつ、病状の程度が重篤となるおそれがあり、また、国民生活及び国民経済に重大な影響を及ぼすおそれがある場合、緊急事態宣言といったより厳しい措置をとることが可能となっている。
3 国務院応対新型冠状病毒感染疫情聯防控機制綜合組「関于印発対新型冠状病毒感染実施"乙類乙管"総体方案的通知」2022年12月26日。

2――新型コロナの外来診療は自己負担が発生へ

2――新型コロナの外来診療は自己負担が発生へ

予防・管理措置の分類が引き下げられたことによって、それまでの国による厳しい管理は緩和された。一方で、それまで実施されていた医療費の公費負担も見直されることになった。ただし、中央政府は移行緩和措置として、3月31日までは、入院費用については公費負担を継続するとした。一方、外来診療については通常の外来診療の自己負担割合を適用するのではなく、別途定めるよう指示している4。中央政府は、地方政府に対して、入院、外来診療、治療薬の調達などの対応を以下のように求めている。
 
1、政府による新型コロナの診療ガイドラインに基づいた入院費用については、公費負担とする。自己負担部分については政府が補助をする。ただし、当座の補助分についてはまず地方政府が財政から拠出し、追って中央政府が実際に発生した費用の60%を補填する。この措置は、患者が入院をした日から3月31日までを期限とする。

2、農村や都市の病院5のサポート体制を強化する。感染の疑いのある患者の外来、救急外来の診療については、原則的に免責額と給付限度額を設けず6、自己負担割合を3割以下に設定する。具体的な措置については、公的医療保険制度を管轄する各地の医療保障局が状況に応じて決定する。

3、オンライン診療の活用を推進する。新型コロナに感染し、オンライン診療を受診した場合、初診についてはオンライン決済を推奨し、診療価格、自己負担も対面での診療と同様にする。

4、治療薬などの調達については、各省の医療保障局と医療保険基金が資金の状況や需要の状況に応じて調達をする。
 
このように、予防・管理措置の分類が引き下げられたことによって、医療給付に関する決定、医薬品の調達は、本来より制度を管轄する地方政府に戻されつつある。また、国による介入や財政的な補填を段階的に縮小しようとする姿がうかがえる。しかし、それを担う地方政府の中には、コロナ禍による不況、不動産不況、土地使用権の規制などから財政難に直面している場合もある。今後、地方政府の財政状態によって、医療給付や給付対象となるコロナ治療薬の多寡が発生し、地域間の医療格差が表面化する可能性がある。
 
4 国家医保局、財政部、国家衛生健康委、国家疾控局「関于実施"乙類乙管"後優化新型冠状病毒感染患者治療費用医療保障相関政策的通知」2023年1月6日。
5 ここで対象となるのは社区に設置された2級未満の基層病院。中国では都市の末端の行政組織として居民委員会があり、その管轄地域を社区として区分している。また、病院のランクは規模やレベルが高い順に3級、2級、1級となっている。3級病院は大学病院レベルの高度な医療機関(病床数は500床以上で、設置した専門科の数が25以上の病院)、2級病院は地域の中核病院(病床数は100-499床で、設置した専門科の数が21以上の病院)で、それ以下は1級病院の基礎レベルの小規模病院(病床数は20-99床で、設置した専門科の数が9以上の病院)となる。
6 中国の公的医療保険制度は地方政府がその給付内容を定めている。通常の医療給付については、多くの地域で、医療給付の対象となるまで一定額の自己負担(免責額)を設けており、その自己負担額を超えた分の給付についても限度額を設けている。

3――新各都市の対応はバラバラ

3――新各都市の対応はバラバラ

中央政府の緩和策を受けて、地方政府も1月8日から3月31日までの医療給付措置について発表をしている。以下では、直轄市である4都市(北京市、上海市、天津市、重慶市)を参考に、内容を確認してみたい(図表1)。

例えば、北京市では、入院費用については中央政府の要請のとおり、公費負担としている7。自己負担部分については申請を受け付けるとし、まず北京市政府が財政で補填するとした。外来診療については、2級以下の病院での診療、11の疑い症状に限定して1割負担とする。自己負担割合の設定は、通常の診療よりも優遇されている。1割負担は、通常の診療では最も基層の医療機関(社区衛生サービスセンター、1級病院相当)の自己負担割合になる8。外来診療については、免責額と給付限度額を設けない。なお、北京市が定める11の疑い症状とは、発熱、咳、疲労、喉の痛み、嗅覚の減退、味覚の減退、鼻づまり、涙、結膜炎、筋肉の痛み、下痢である。北京市は4月をめどに、それまでの自己負担の補填申請をオンライン上で処理し、被保険者の医療専用口座に送金をするため、償還に関しての申請は不要としている。
一方、天津市では、入院費用の公費負担は北京市と同様であるが、外来診療については病院のランク、患者が加入している制度によって異なる9。2級以下の病院で、都市の会社員が加入している制度では、外来診療の自己負担は2割、都市の非就労者・農村住民が加入する制度では自己負担を3割としている(免責額と給付限度額は設けられない)。いずれも通常の外来診療受診時の自己負担割合から15-25ポイントほど軽減している10。ただし、大学病院レベルの3級病院で受診する場合は、移行緩和措置は適用されず、通常の外来診療時の自己負担割合、免責額、給付限度額で受診することになる。

このように、4直轄市のみを見ても、外来診療の自己負担割合の設定はそれぞれ異なる。外来診療は原則として2級以下の病院としており、更に上位の3級病院を受診する場合は、より負担の重い通常の診療と同様の自己負担割合が適用されることになる。この点からも、発熱などの外来診療は2級以下の病院に集約するようにしていることがうかがえる。また、上海市、天津市のように、同じ市内であっても加入している制度によって自己負担割合が異なるケースもある。都市の会社員と比較して所得が相対的に低い都市の非就労者・農村住民の方が自己負担が高く設定され、診療控えなども懸念される。今後は3月31日以降、入院費用をどうするのか、外来診療の給付を通常と同様の規定を適用するのかなどについて注視する必要がある。
 
7 北京市医療保障局、北京市財政局、北京市衛生健康委員会「関于実施"乙類乙管"後優化新型冠状病毒感染患者治療費用医療保障相関政策的通知」2023年1月8日。
8 中国の公的医療保険制度では病院のランクに応じて自己負担割合を設定しており、より上位のランクの病院で受診する際は、より多くの自己負担を支払う必要がある。
9 天津市医療保障局、天津市財政局、天津市衛生健康委員会「関于実施"乙類乙管"後優化新型冠状病毒感染患者治療費用医療保障相関政策的通知」2023年1月8日。
10 天津市における通常時の外来診療の自己負担については、加入している保険の種類、受診する医療機関のレベル、治療費の多寡によって異なる(下表参照、天津市政府ウェブサイトより筆者作成)。なお、都市非就労者・農村住民基本医療保険(任意加入)については、2種類の保険料が設定され、自身で選択が可能となっている。

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき(かたやま ゆき)

研究領域:保険

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴

【職歴】
 2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
 (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
 ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
 (2019~2020年度・2023年度~)
 ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
 ・千葉大学客員教授(2024年度~)
 ・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
 日本保険学会、社会政策学会、他
 博士(学術)

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