(イ)動画カテゴリー
次に動画カテゴリーで見ていくと、「ゲーム配信」や「歌ってみた」といったジャンルは、ニコニコ動画やYouTubeでずっと投稿されてきたジャンルである。「ラジオ配信」においても、ニコニコ生放送やツイキャスなどのライブストリーミングサービスや個人で行うインターネットラジオのように長らく行われてきたジャンルである。そのため、VTuberというフォーマットは確かに新しく感じるかもしれないが、彼らが投稿する動画のカテゴリー自体は決して新しいモノではなく、我々が従来から消費してきたネットコンテンツの焼き直しでもあるのだ。
(ウ)YouTuber
次にYouTuberとの比較であるが、YouTuberにも「ヒカキン」や「はじめしゃちょー」のように素性を明かしているYouTuberと、自身をイメージした2次元のイメージをアイコンにして素性を明かさないYouTuberも存在する。前者とVTuberの違いは匿名性・覆面性である。素性を明かしていて、且つリアルな肉体運動ができるYouTuberはVTuberよりも活動範囲が広い。またVTuber同様インフルエンサーとしての側面を持つが、前述した通り、生身の人間であるが故にVTuberよりもスキャンダルや不祥事へのリスクが高い。併せてYouTuberは、自分自身とカメラがあればコンテンツ作成(動画撮影)できるのに対し、VTuberはVRデバイスやカメラを使い、モーションキャプチャー、Unityなどの3D等の技術介入が必須な点も大きな違いと言えるだろう。
一方後者の素性を明かしていないYouTuberと比較すると、双方ともに投稿者自身のアバターを使用しており、生み出されるコンテンツのカテゴリーも双方で大きな違いはない。YouTubeに限らず、2次元のイラストをアイコンとし自身のアバターとしている動画投稿者は様々な動画や音声配信プラットフォームに存在しており、そのよう動画投稿者と比較した場合、同じ2次元のキャラクターでも、バーチャルキャラクターとして動くのか否か、という点が違いと言えるだろう。
(エ)ゆっくり茶番劇
また、アバターを通して自身を表現するという意味では「ゆっくり茶番劇」も比較に欠かしてはいけないコンテンツである。「ゆっくり茶番劇」とは、AQUEST 社の「AquesTalk」や「棒読みちゃん」という音声合成ソフトで生成した音声を東方Project
16のキャラクター「霊夢」と「魔理沙」にあてる(しゃべらせる)ことで作成されるゲーム実況や解説動画のことである
17。2022年5月に話題となった「ゆっくり茶番劇」の商標登録問題で同コンテンツを認知している読者もいるのではないだろうか。ゆっくり茶番劇も動画投稿者の代わりに「霊夢」と「魔理沙」がアバターの役目となり、ゲーム実況や解説動画が投稿されている
18,19。特に解説動画は専門的な知識を基に作られているモノが多く、VTuber同様覆面性があるからこそ、その道のプロや専門家が動画を投稿できていたと考えられる。覆面性や匿名性という特性からVTuberとは投稿されているジャンルには親和性があるが、両者の大きな違いは、「ゆっくり茶番劇」では動画投稿者は皆同じアバタ―と同じ音声(声)を使用しているため作成されるコンテンツは画一化されており、動画の差別化は「動画のカテゴリー」と「クォリティ」が中心となる。ある意味無機質で個性がないことが魅力とも言えるだろう。一方でVTuberは外見と声、またデザインを基に設定されたアイデンティティが他のVTuberとの差別化の要因になるため、より個性の側面が重視されているわけだ。