(1) DMA6条2項の利用事業者のCPS利用情報をGKが競争へ利用することの禁止については、上記3|(1)で指摘したように、評価の検討項目となっている。この点、DPF提供者は各社とも自社の販売業務に利用事業者の情報は利用していないと報告をしている(詳細は別稿を予定)。
(2) DMA6条3項のプレインストールされたアプリの削除とデフォルト設定変更の許容については、透明化法では該当規定がなく、かつ評価でも検討を行っていない。この点、OSにプレインストールされたアプリはスマホなどのデバイス上で他のアプリに対して有利な立場に立つ。公正な競争のためには、アプリを利用者によって削除およびインストールが自由に行うことができることが望ましい。ただ、透明化法ではアプリストア自体がDPF提供者とされていることから、DPF提供者と利用事業者の関係を規律する透明化法ではDMAのような内容を求めるのは難しいと思われる(=アプリストア同士がDPF提供者同士の問題であるため)。アプリやサービスの乗換制限の禁止(DMA6条6項)も同様に透明化法の下での対応は難しいであろう。
(3) DMA6条4項はアプリストア・アプリのインストール許容を求めている。評価では、アプリのインストール許容に関して、「アプリ審査の予見可能性」という項目が立っており、事実上、不公正なアプリストアからの排除を抑止するものとなっていると考えられる。しかし、DMAはアプリストアそのもののインストール許容を求めている。これはDMAがOSをCPSと捉え、CPSのGK(すなわち透明化法でいうDPF提供者、具体的にはApple(iOS)とGoogle(Android))に他社のアプリストアのインストールを求めるものである。しかし透明化法のようにアプリストアをDFPと位置付ける場合には、このようにアプリストア自体をインストールすることを容認することを求める誘導は困難であると思われる(=DPF提供者同士の問題となるため)。そもそもアプリストアのインストールを認めること自体はセキュリティの問題などからかなり難しい課題であり、DMAがGKに具体的に適用されるまでの動きが注目される。
(4) DMA6条5項はランキング優遇の禁止を求める。この点、透明化法ではランキング決定のために用いる主要な事項を開示することとされている。そして評価では「自社及び関連会社優遇」と「商品・アプリの表示順位の決定要素」とを取り上げている。透明化法でも実質的には自社あるいは関連会社のランキング上の優遇を抑止するものであり、実際の効果としてはDMAと近しいものと考えられる。
(5) DMA6条7項のOS等の相互運用性の確保であるが、これはたとえばスマホの近接距離通信(Near field communication、NFC)システムを自社サービスだけではなく、他社のサービスにも利用を認めることとするものである。透明化法ではそもそもOSがDPFの指定範囲外なので、運用で解決する問題ではない。OSの提供者の市場への影響力を考えると、法令を改正すべきかどうかが検討問題となる。
(6) DMA6条8項は広告測定ツールへのアクセスの許容を求める。指針には、同様の内容について記載がある(指針2.1.2②)。ただし、指針では商品等提供利用者(すなわち媒体社)への第三者ツールへの接続を認めるよう求めており、一般利用者(広告主)についての記載が見当たらない。これは当該記載がメディア一体型広告DPFに対して記載されているためと思われる。指針ではアドフラウドなど広告の質についても取り上げており、Googleのような媒体社と広告主の間に入るDPF提供者については広告主サイドにも広告測定ツールを認めることは検討課題になると思われる。
(7) DMA6条9項のデータポータビリティは、DPF提供者間でのデータを一般利用者が移管できるようにするものである。この点、透明化法はDPF提供者と利用事業者の相互理解を促進するための規定を持っているだけであり、データポータビリティ確保まで踏み込んでいない。なお、データポータビリティにはかなりの技術上の課題が存在するものと推測されるので、EUのDMAのGKへの具体的な適用過程を見ておく必要がある。
(8) DMA6条10項の生成されたデータへのアクセスは、利用事業者がGKの有する取引データにアクセスできることを要求するものである。ただし、個人データは利用事業者の取引先であり、かつ当該個人が同意した場合に提供されるものとされている。この点に関しては、評価においても検討対象となっている(「オンラインモール運営事業者によるデータ利用」「アプリストア運営事業者によるデータ利用」
10)。概ね、利用事業者に係る情報はDPF提供者から提供され、また個人の情報は当該個人の同意が必要とされている。すなわち透明化法でも同様の対処ができていると考えられる。
(9) DMA6条11項のオンライン検索データへのアクセスは、オンライン検索エンジンのデータを別のオンライン検索エンジンが取得できるとするものである。繰り返しとなるが、透明化法はDPF提供者と利用事業者の相互理解のための法律であるため、このような取り扱いを求めるのは困難であろう。このDMAの規定自体はかなり特殊な取り扱いをするものであるため、検討すべきかどうかは今後の議論の展開を見ておく必要がある。
(10) DMA6条12項のアプリストアへの公平なアクセス条件は上記(3)に述べた通りである。
(11) DMA6条13項の不相応な契約解除規定の禁止は、加入が簡単にオンラインでできるが、解約は電話に限定する(かつその番号にはなかなかかからない)など解約を困難にする、いわゆるダークパターンに対処するものである。これは透明化法に該当するものはないが、日本では特定商取引法13条の2に対応する条文がある。DPF提供者に限定されるものではないが、対応は行われているということができるかもしれない。