日銀短観12月調査では、製造業と非製造業で景況感の方向性が分かれ、景気がまだら模様となっていることが浮き彫りになった。引き続き、原燃料価格の高騰が幅広く景況感の重荷となった。さらに、大企業製造業では海外需要も低迷したことで、業況判断DIが7と前回9月調査から1ポイント下落した。景況感の悪化は昨年12月調査以降4四半期連続ということになる。一方、大企業非製造業では、経済活動再開の流れが継続したうえ政策的な支援もあり、業況判断DIが19と前回調査から5ポイント上昇した。
業況判断DIの水準で見ると、製造業はもとより、非製造業でもコロナ禍前のピーク
1までには回復していない。
ちなみに、前回の9月調査
2では、上海の都市封鎖解除に伴う供給制約の緩和が支えとなったものの、原燃料価格の高騰などが逆風となって大企業製造業の景況感が弱含む一方、非製造業では経済活動再開の流れが続いたことで、景況感がわずかに改善していた
前回調査以降も、既往の資源高や円安進行に伴う原燃料価格の高騰が続いている。また、自動車産業における部品不足などの供給制約は緩和に向かっているとみられるが、世界的な半導体市場の悪化や中国経済の回復の遅れなどから海外需要が低迷している。一方、国内では行動制限の再発令が回避されたうえ、全国旅行支援や入国制限の緩和などの政策的な追い風を受けて人出が前年を上回って推移し、サービス需要が回復している。
今回、大企業製造業では、原燃料価格の高騰が引き続き景況感の重荷となったうえ、半導体市場の悪化や中国経済の回復の遅れなどに伴う海外需要の低迷もあり、景況感が弱含んだ。
非製造業についても、原燃料価格の高騰が引き続き景況感の重荷となったものの、経済活動再開の流れが継続したうえ、全国旅行支援や水際対策の緩和といった政策的な追い風もあり、対面サービス業を中心に景況感が改善した。
中小企業の業況判断DIは、製造業が前回から2ポイント上昇の▲2、非製造業が4ポイント上昇の6となった。大企業同様、非製造業の景況感改善が目立っている。
先行きの景況感は総じて悪化し、非製造業を中心に先行きに対する警戒感が示された。製造業では急速な利上げに伴う欧米の景気後退やゼロコロナ政策下にある中国経済の低迷など世界経済の減速に対する懸念が景況感を圧迫したと考えられる。また、非製造業ではコロナ感染再拡大による人出の減少や物価上昇に伴う国内消費の減退に対する警戒感が重荷となったとみられる。なお、足元では、国際商品市況の上昇や円安の進行が一服しているものの、原燃料価格の高止まりに対する警戒感が残り、幅広く景況感の重荷になったと考えられる。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元の景況感が市場予想(QUICK集計6、当社予想も6)をやや上回ったうえ、先行きの景況感も市場予想(QUICK集計5、当社予想は4)をやや上回った。大企業非製造業については、足元の景況感は市場予想(QUICK集計17、当社予想も17)を上回ったものの、先行きの景況感は市場予想(QUICK集計16、当社予想は14)を大きく下回った。
2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比15.1%増と前回(同16.4%増)から下方修正されたが、前年から大幅に持ち直すとの計画は維持された。16.2%という伸び率は、12月調査としてはバブル期であった1989年(15.5%)以来の高い伸びに当たる。
例年、12月調査では中小企業において計画の具体化に伴って上方修正される傾向が強いほか、企業収益の回復を受けた投資余力の改善、昨年度から先送りされている計画の存在、脱炭素やDX・省力化に向けた投資需要の存在が設備投資計画で高い伸びが維持された背景となる。
ただし、既往の資源高や円安によって資材価格が高騰しているうえ、欧米の利上げや中国経済の回復の遅れなどを受けて海外経済の後退懸念が高まっていること、国内経済もコロナの感染再拡大や物価高の影響が懸念されることから、一部で投資の見合わせや先送りの動きも出始めていると考えられる。このため、前回調査からの伸び率の修正幅(▲1.3%ポイント)は例年
3を大きく下回っている。従って、設備投資計画の修正のモメンタムは弱めということになる。
また、今年度の設備投資計画は今のところ大幅に持ち直すとの計画が維持されていると評価できるものの、実際、内外経済を巡る下振れリスクは高いと考えられる。従って、今後設備投資計画が大幅に下方修正されるリスクも排除できない。
今回注目された仕入価格判断DI・販売価格判断DIについては、足元で仕入価格上昇の勢いが増し、販売価格への転嫁が進められたことを示している。先行きは仕入価格上昇の勢いがやや和らぐことが想定されているが、価格転嫁の遅れもあって採算が大きく圧迫されている中小企業では、今後も販売価格引き上げの動きを強めるとの見通しが示されている。
今回の短観が日銀に早期の金融政策変更を促す可能性は低いだろう。
まず、今回の景況感はまだら模様となったうえ、今年度の設備投資計画は大幅な伸びを維持したものの、下方修正が入ったほか、実現性に対する不確実さも残る。
また、中小企業の販売価格判断DIが先行きさらに上昇し、企業の物価見通しが高止まりしていることは、物価上昇の継続性を高める方向に作用する可能性があるが、日銀の目指す「賃金上昇を伴う形で安定的な2%の物価上昇」という状況が実現するためには、来年の春闘での大幅な賃上げ妥結が不可欠だ(かなりハードルは高い)。従って、日銀は当面、現行の金融緩和を維持しながら、企業による賃上げの動向などを注視していくだろう。
1 ピークの時期はともに2017年12月調査。当時のDIの水準は製造業が26、非製造業が25。
2 前回9月調査の基準日は9月12日、今回12月調査の基準日は11月28日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
3 2012~21年度における12月調査での修正幅は平均で+0.9%ポイント
2. 業況判断D.I.