おたく
1という言葉が生まれた1980年代は、マンガやアニメは社会的にみて子供向けコンテンツとしての位置づけにあり、そのようなコンテンツを嗜好する大人は子どもっぽいと奇異の目で見られることが多く、オタクとしてレッテルを貼られるようになった。また、1990年代には連続幼女誘拐殺人事件の犯人がオタクとして報道され、その特異性や偏執性の側面が過度に強調されることにより、オタクについてのマイナスのイメージが世間に定着することになった。そして2000年代には、"アキバ"をはじめとしたメイドカフェや「萌え文化」、AKB48などのオタクブームの側面とネルシャツやケミカルウォッシュのジーパンを着て、リュックサックや紙袋にポスターを入れているようなステレオタイプ
2,3に焦点があてられることが多くなり、オタクと言う言葉自体がネガティブな意味を擁し、他人から貼られるレッテルのような側面を持つことになる。
しかし、昨今
4ではオタクのイメージが再構築されつつあり、マニアやコレクターとしての意味合いが強くなった結果、オタクという言葉に対してポジティブな印象が持たれるようになってきたようだ。特に若者が使うオタクという言葉は、従来の「ファン」という側面に加えて、自分がお金や時間を費やしたいモノという「趣味」そのものを表す用語へと変化してきている。更にそこから転じて、オタクという言葉が個人のアイデンティティと同義で使用されており、自身が何かのオタクであることを明かすこと自体が一般的になり、最近では自身がオタクであることを他人とのコミュニケーションのフックに活用しているようだ。
一方で、熱心にコンテンツを消費し、それが自身の精神的充足に繋がるような消費性を持つ消費者(いわゆる消費性オタク)のコミュニティにおいては、知識量やコレクション量などが他の消費性オタクから承認される際に「オタク」という言葉が使われてきたこともあり、従来のオタクは、オタクの自認有無に関わらず、他人から認識されることで成立していた。「Aさんよりはオタクだが、Bさんと比べるとまだまだオタクを名乗れない。」といったように他人と比較することで、自身がオタクであるか、にわか(ライトオタク)であるか構造化されていたのである。
ここまでを整理すると
(1) かつてオタクと言う言葉は、ネガティブなレッテルの側面を擁していた。
(2) オタクと言う語の大衆化に伴い、ポジティブな意味が見いだされるようになり、オタクを自称することが普通な世の中になる。
(3) 消費性オタクのコミュニティでは、自身がオタクであるか、にわか(ライトオタク)であるかは、他人と比較する(比較される)ことで構造化されるため、自称の側面よりも他人からの承認によって成立する側面の方が大きい
5。
1 おたくという言葉は1983年にコラムニストの中森明夫が「漫画ブリッコ」内で命名したといわれており、当時はおたく とひらがなで表記がされていた。
2 このステレオタイプ自体は1990年代に「宅八郎」がメディアに出ていたころから存在していたモノではあるが、2003年から2005年まで放送されていた「ネプリーグ」においてお笑いグループネプチューンの堀内健が宅八郎をモデルとした「秋葉カンペ―さん」というキャラを演じ、秋葉原におけるオタク文化(特にアイドルオタク)に焦点を当てたコーナーを放送していたり、2005年に秋葉原を舞台とした映画「電車男」が大ヒットするなど、ステレオタイプがより世間に認知されたのはこの頃であると筆者は考える。
3 見た目へのステレオタイプと併せて、根暗やひきこもり、といった人間性に対するステレオタイプも存在する
4 具体的にいつ頃かとは明言できないが、(1)2006年に全日帯のアニメ(キッズ・ファミリーアニメ)製作分数と深夜帯のアニメ製作分数がほぼ互角になるほど深夜アニメが広がることとなり、深夜アニメ視聴がオタクだけでなくオタクではない層でも行われ、オタク文化自体も広がりを見せた頃、(2)2013年AKB48選抜総選挙は瞬間最高視聴率32.7%と、当時の消費者の大きな関心事の一つであり、選挙が近づくにつれワイドショーなどで「推す」「オタ活」などオタク関連のコトバが多用され、それに伴いオタク自体が大衆化していった頃、(3)Kis-My-Ft2の宮田俊哉氏がオタクであることを公言して以降芸能界においては、オタクであることを公言することが普通になっており、それに伴いオタク自体のイメージも一新されていった頃、と大衆化していったきっかけは多数あると筆者は考える。
5 他人からオタクであると識別されるには自身のコンテンツに対する熱量を可視化する必要がある。コンテンツに対して熱心に消費ができるのはそのコンテンツに熱中しているからこそであり、本来はコンテンツに熱中する→他人からオタクであると思われる、という流れが自然である。そのため、筆者の感覚からすれば「オタクを始める」「オタクになった」という表現は違和感がある。
3――なぜ、オタク人口は増えた(ように見える)のか?