日銀短観(9月調査)~大企業製造業の景況感は3期連続の悪化で停滞感強い、設備投資計画は堅調も下振れリスク大

2022年10月03日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 9月短観では、供給制約の緩和や設備投資の持ち直しが追い風になる一方で、原材料価格の高騰が重荷となり、大企業製造業の業況判断DIが8と前回から1ポイント下落した。大企業非製造業では、経済活動再開の流れが続いたことが支援材料となったものの、コロナ感染の再拡大が足枷となったうえ、原材料価格高騰が重荷となったことで、業況判断DIが小幅な上昇に留まった。製造業、非製造業ともに前回から横ばい圏に留まり、水準としてもコロナ前のピークに大きく及ばない。景況感は停滞色が濃厚になっている。
     
  2. 先行きの景況感も明確な持ち直しは見込まれていない。原材料・エネルギー高の継続、利上げによる欧米の景気後退、中国での都市封鎖再発、国内での冬場の電力不足等への懸念が重荷になっていると考えられる。
     
  3. 2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比16.4%増へと上方修正された。伸び率は調査開始以来、9月調査としては過去最高に当たる。また、前回調査からの伸び率の修正幅も例年をやや上回っている。例年、9月調査では若干上方修正される傾向が強いうえ、収益の回復を受けた投資余力の回復、昨年度から今年度へ先送りされた計画の存在、脱炭素やDX・省力化に向けた需要の存在が堅調な設備投資計画の背後にあると考えられる。このように、設備投資計画は今のところ堅調な内容が維持されていると評価できるものの、内外経済を巡る下振れリスクは最近さらに高まっていると考えられる。従って、今後設備投資計画が下方修正されるリスクも相応に高いとみられるだけに、計画の実現性については楽観視できない。
     
  4. 今回注目された仕入価格判断DI・販売価格判断DIは引き続き歴史的な高水準に達している。価格転嫁の遅れから企業の採算は厳しい状況が続いているため、採算の改善に向けて今後も販売価格の引き上げを続けるとの見通しが示されている。

 

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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