3|市場支配力の存在
エピック地裁判決では市場支配力の証拠として現れる事項には、価格、契約上の制限、営業利益率および参入障壁があるとされていた。本件の修正申立てにも同様の内容は記述されている。
(1)価格 Amazonの仲介手数料は販売価格の15%(衣料等ではもっと高額)であり、配送サービスなどを利用すると40%に及ぶと主張されている。そしてこれらの価格は競合するオンライン市場における手数料より高いものとされている。この仲介手数料が超競争的な価格、すなわち、公正な競争が行われていれば設定されないような価格であれば、市場支配力が存在する証拠となる。
ただ、修正申立てでは営業秘密保持の観点からか、他のオンライン市場はAmazonより低いとは言いつつも、他のオンライン市場における手数料が実際のレートとして明示されておらず
18、また、その差額が超競争的と言えるだけの差異があるかどうかも判然としない。ここはAmazonに反論の余地のあるところであると思われる。
(2)契約上の制限 エピック地裁判決で問題とされたのはアンチステアリング条項であった。アンチステアリング条項とは、ゲームのコンテンツ購入にあたって、アプリストア外の自社サイトなどに消費者を誘導することを禁止するというものであった。
修正申立てで契約上の制限と言えるのは、MFN(PPP,FPP)とMMAである。これらは他のオンライン市場でより安い価格での販売を禁止する効果を持つとされる条項である。これらの条項は契約に盛り込まれ、かつ違反行為にはBuy Boxから外すという制裁が行われる。MFNもMMAもAmazonのオンライン市場におけるよりも、より安い価格で他のオンライン市場で販売されないという効果を持つものであると主張されている。この主張通りであれば、Amazonでの販売価格は常に最安値であり、Amazonの市場支配力の維持・強化に寄与すると言えそうである。ただし、たとえばFPPは、契約条文上は他のオンライン市場での安価販売を禁止してはいない。事実認定の問題が残る。この点に関してはAmazonに反論の余地はある。
(3)営業利益率 Amazon本体の営業利益率についてはTPSからのマージンが20%であり、自社商品販売により得られる利益よりも4倍も高いとされている
19。この主張が十分であるのかはよくわからない。修正申立てからは利幅(margin)が4倍というだけで、実際に比較しているのが何と何であるのかが読み取れない。売上高に対する仲介手数料金額とAmazon独自商品の販売純利益とであろうか。この二つを比較することにどれほどの意味があるのか筆者には判然としない
20。この点の詳細を詰めるとAmazonに反論の余地があるのかもしれない。
(4)参入障壁 エピック地裁判決ではAppleのアプリストアには間接ネットワーク効果があるが、ゲームデバイスが多様化しており、将来的にも維持できるかどうかは不透明とされた。
修正申立てでは、Amazonオンライン市場にも間接ネットワーク効果がある。つまり、利用者が増加するほど出店者(TPS)が増加し、出店者が増加するほど利用者が増加する効果を有していると主張されている。このようなネットワーク効果を生み出すこととなった仕組みはAmazon Prime会員制度である。これは翌日配送送料無料などのサービスを、サービス提供事業そのものは赤字であっても、継続することで膨大でAmazonに忠実な顧客層を生み出すことに成功したというものである。
日本でも米国でもこのような参入障壁が存在することは、いわゆるGAFAについては当然のことと議論されてきた。そしていったん成立したネットワーク効果は容易に崩すことはできないため、参入障壁は認められやすいのではないだろうか。
18 修正申立てP13参照。
19 修正申立てP14参照。
20 たとえばショッピングモールの賃貸料と、自社物件であるショッピングモールでの販売利益を比較しているようなものともいえそうである。