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商業施設売上高の長期予測-少子高齢化・EC市場拡大・コロナ禍による消費行動の変容が商業施設売上高に及ぼす影響
基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.303]
2022年06月07日
(佐久間 誠)
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1―商業施設は少子高齢化が逆風に
コロナ禍は商業施設に多大な影響を及ぼしたが、足もとではコロナ前の水準を回復しつつある。それでは、コロナ禍が収束した後、商業施設の売上環境はどのように変化するのだろうか。
今後は少子高齢化が本格化するため、商業施設の将来の売上は決して楽観できる状況ではない。2020年の国勢調査によると、日本の総人口は1億2615万人となり、2015 年から95万人減少した[図表1]。日本の人口は2010年調査をピークに減少が続いており、国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、今後10年間で4.9%減少、今後20年間で11.5%減少する見通しである。
少子高齢化は「単身世帯の増加」と「世帯の高齢化」をもたらす。
単身世帯の増加は、商業施設の売上を下支えする要因となる。品目別に見ても、単身世帯の支出は二人以上の世帯をほとんどの品目で上回り、特に食料や被服・靴、外食、観覧・入場料等、交際費を押し上げる要因になる。
これに対して、世帯の高齢化は、商業施設の売上の減少要因となる。品目別に見ると、食料、被服・靴、外食、旅行サービスなど、多くの品目が高齢化により支出が減少し、医薬品関連、理美容サービスなど一部の品目では増加する。
2―EC市場拡大も商業施設を下押し
リアルな店舗である商業施設への逆風として、インターネットを利用しての購入であるECの市場拡大も指摘される。欧米では、コロナ前からECシフトにより多くの商業施設が閉鎖に追い込まれ、「AmazonEffect」と呼ばれている。
コロナ禍においては、巣ごもり消費が増加し、ECシフトが加速した。2020年の日本のEC化率は8.1%となり、前年からの上昇幅が+1.3ポイントと過去最大の伸びを記録した[図表2]。
ただし、EC市場の拡大ペースは、足もとではコロナ前の水準まで鈍化している。コロナ禍におけるEC支出額は、2020年4月から2021年3月まで+40%~ +70%の伸び率となったが、2021年4月以降は平均+10%の伸び率に減速している[図表3]。したがって、コロナ禍におけるECシフトの加速は一巡した可能性がある。
品目別に見ると、多くの品目でEC拡大ペースがコロナ前の水準に戻っているが、食料品は引き続き高い伸びを維持している。2019年から2021年にかけてのEC支出額変化率(前年比)をみると、「食料」(+15.4%→+55.9%→+36.4%)と「健康食品」(+6.3%→+19.4%→+14.1%)は、2021年においても2019年の2倍以上の伸び率となっている[図表4]。
また、年齢別に見ると、高年層におけるEC支出額の伸び率は、コロナ前を上回っている。食料品や高年層は、もともとEC化率が低かったが、コロナ禍においてEC利用の普及が進んだことで、今後、EC拡大ペースが速まるかもしれない。
3― コロナ禍を契機としたコト消費からモノ消費へのシフト
ECシフトの加速に加え、コロナ禍による消費行動の変容として、「コト消費からモノ消費へのシフト」が挙げられる。
消費支出に占める財消費の割合は2019年の57.6%から2020年の61.3%へ上昇した[図表5]。2021年は60.3%に低下したものの、コロナ前と比べて高い水準である。
もっとも、この変化は全ての年齢層で一律ではない。家計調査における消費支出を年齢別にコト消費とモノ消費に分類してみると、2020年は「34歳以下」ではコト消費が▲13.9%、モノ消費が+11.3%となったように、若年層・中年層はコト消費をモノ消費で代替したことがわかる[図表6]。一方、「85歳以上」はいずれの消費(コト消費▲23.7%、モノ消費▲3.2%)も減少した。
コロナ禍が収束すれば、若年層と中年層ではコト消費へ回帰し、高年層でも消費水準の回復が期待されるが、コロナ前の水準に戻るかどうかについて、現時点で判断することは難しい。
4―長期的な商業施設売上高の見通し
少子高齢化とEC市場拡大の影響に加えて、コロナ禍による消費行動の変容を考慮し、2040年までの商業施設の売上環境の変化を試算した[図表7]。
まず、年齢毎に見た各世帯の可処分所得と消費性向、品目別消費割合は将来時点で一定と仮定した。年齢毎の可処分所得に、消費性向と品目別消費割合を乗じることで、年齢毎の品目別支出が求まる。この年齢毎の品目別支出に、国立社会保障・人口問題研究所による年齢毎世帯数の将来推計を乗じることで、日本全体の物販・外食・サービス支出を求めた。これは日本の商業施設の潜在的な売上規模を示す。そして、日本全体の物販・外食・サービス支出からECによる購入を除いたものを、日本全体の商業施設売上高として推計した。
また、コロナ禍による消費行動の変容が感染収束後も定着するかは、不確実性が大きい。そのため、消費チャネルにおける「ECシフトの加速」と消費構造における「コト消費からのモノ消費へのシフト」について、「コロナ前回帰シナリオ」と2021年のウィズコロナの状態が定着する「ニューノーマルシナリオ」の、2つのシナリオを設定した。
ポストコロナにおける消費行動は依然不透明ではあるものの、恐らくこれらのシナリオの間に落ち着くことが予想される。
なお、本稿では可処分所得が将来にわたり一定と仮定している。そのため、可処分所得が増加した場合、商業施設売上高は上振れることになる。逆に可処分所得が減少すれば、商業施設売上高は予想より下振れることになる。
試算した結果、商業施設売上高は(2019年=100)、2030年に「87.5~94.3」、2040年に「77.3~85.8」となった[図表8]。年率では、2030年に▲0.3% ~▲1.5%、2040 年に▲0.4%~▲1.3%となる。年率▲1%前後であれば、商業施設の運営力などで対応する余地もありそうだ。
しかし、ここで重要なのは商業施設売上高への下押し圧力が、今後20年にわたって緩やかに続くことである。少子高齢化とEC市場拡大は長期的かつ不可逆的な変化であり、商業施設にとって「緩やかに進む危機」だと言える。
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