2021年末時点で、中国における「社会保障カード」の保有者数は13.5億人、人口の95.7%をカバーしている
1。1999年に最初の社会保障カードが発行されておよそ20年が経過し、広く普及していることが分かる。また、スマートフォンでも利用が可能なオンライン上の「電子社会保障カード」(アプリ)もあり、こちらの保有者数は5億人を超え、人口に対するカバー率は35.4%となっている
2。
電子社会保障カードについては、特に新型コロナを経て普及が進んだ
3。その背景には、非接触型の手続きの需要拡大、取得にあたっての利便性の高さや受けられるサービスの拡充があろう。取得には、政府や銀行、アリペイなどのオンライン決済、WechatのSNSなど合計460のアプリや、インストールが不要なミニアプリから簡単にできる。社会保障に関する多くの手続きがオンライン上ででき、それ以外にも市民向けサービスでも活用できる。
そもそも社会保障カードの役割としては、失業、労災、医療、年金など社会保障に関する行政手続きを効率的にできる点にあろう。例えば、戸籍の登録、失業の際の登録や再就職に向けた技能研修の申請、社会保険料の納付・受給申請・受給など、全国共通で可能な手続きは62項目、それぞれの地方独自では1,000項目の手続きが可能となっている。
中国は地方政府が社会保障制度の運営を行っている点から、行政手続きも地方ごとに分断されている。働き方の多様化が進み、地域を跨って人が移動する中で、社会保障カードによって社会保険料の納付情報や履歴の継続・移管手続きをスムーズにすることが可能となった。その点においても社会保障カードが果たす役割は大きいと言えよう。
社会保障カードは銀行の決済口座と紐づいており、当該口座で年金や失業給付金の受給も可能となっている。また、通常のバンクカードとして、日用品の買い物や通院などの診療費用、医薬品などの支払いなどにも利用できる。上掲以外に、市民向けサービスとして、図書館での本の貸し出しや博物館や公園などへの入場、都市での公共交通機関での乗車にも使用できる。
一方、電子社会保障カード(アプリ)の利点としては、手元のスマホで従来と同様の社会保障に関する手続きができる上、サービス面においても汎用性が高い点にあろう。
例えば、就職や転職については、電子社会保障カードのアプリ上で全国の求人情報をリアルタイムで確認することができ、起業する場合は資金貸与などもオンラインでの申請が可能となっている。
加えて、年金については、社会保険料をオンライン決済で納付でき、現時点での積立額や将来受け取れる年金額の予測も確認することができる。一方で、行政側の手続き簡素化にも一役買っている。年金給付に際しては、顔認証による本人確認、高齢となった場合は生存確認も可能だ。主務官庁の人力資源社会保障部は本人の生存確認に加えて、その他の主務官庁が管轄する交通機関の利用状況、服役に関する情報などと照らし合わせ、情報の整合性をはかることもできる。
なお、地方政府においては金融機関の設置などが制限されている点からも、農業関連の補助金や学生向けの奨学金の支給などにも活用されている。
中国における社会保障カードは、出生、就業、失業、疾病、老齢といった、人が社会で生きていく上で直面する様々なリスクや、それに関わる情報を1つに集約したものになる。更に、社会保障カードの電子化は、単なる手続の効率化・利便性の向上から、年金の受給額予測など将来のリスクに備えたサービスの提供、就労などの機会の拡大、日々の生活の活用にまで拡大されている。若年層の雇用の多様化が進み、オンライン・非接触型の消費・サービスが拡大する中で、今後、社会保障に関連するオンラインサービスは更に拡充されるであろう。
中国の社会保障カードの高い普及率には、20年という時間をかけ、いざというときに使用するものから日常で使う汎用性の高いものに変容させた点にあろう。日本と中国では社会保障制度のあり方や佇まいが異なるため、本邦のマイナンバーカードとは簡単に比較はできないかもしれない。しかし、普及のカギは、非日常で使うものから、日々の生活に密着したサービスを提供し、それを常に拡充している点にあると考えられる。