青木氏: DXについては、業界を問わず、社会課題を解決するために必須だと思います。ことさら介護業界だけ取組が遅れているように言われますが、そうではなく、すべての業界で、小規模零細は遅れているし、大企業は進んでいると思います。小さいところは、やろうと思ってもできないのです。
そういうときに2022年度の介護報酬改定があり、ICT導入が促進されました。まさに報酬で誘導するいつものやり方ですが、いくら報酬で誘導しても、デジタル化のインフラが整っていないところに、あれをやれ、これをやれといっても無理です。
介護報酬がどういう仕組みになっているかと言うと、サービスごとに公定価格が決まっていて、開発費は積算に入ってないのです。普通の企業なら、一生懸命資金を貯めて開発するのですが、小さなデイサービス施設の場合、例えば売上が月200万円、利益率が4%だとすると、もうけは月8万円しかない。それでどうやってDXを進めるのか。介護報酬の仕組みがそういう立て付けになっていないと認識しているなら、ライフを実施する前に、きちんと経費の手当てをした上で、インフラとして事業所のICT化を進めないといけない。あまりにも安直だと思います。
なぜこのようなやり方になったかというと、厚労省の力が弱くなって、官邸主導で進めたからでしょう。厚労省はそんなことやりたくない。介護業界を守っていかないといけない立場だから。でも嫌々、やっているのです。安倍内閣になってから官邸主導が強まり、ライフの導入は2016年の閣議決定で決まってしまったから、厚労省はそれをやっているだけです。だから、当時の介護報酬分科会でも詳しい話ができないうちに導入が決まってしまった。
逆に言うと、介護報酬で誘導すると、DX化の健全な発展に水を差すことになります。人間の手でやらなくてもいいことはデジタル化し、人間がやらないといけないことは人間がやる。あるいは、介護の間接業務の部分をデジタルで行い、成果を見ながら次のステップで、直接、利用者の介護に関わることもデジタルでやっていく、というような段取りで、目指す方向を示した上で進めるべきなのに、「2022年度介護報酬までに科学的介護の一定の成果を出す」と閣議決定で決められちゃったから、やらざるを得なかった。
事業者はそれにひっぱられてデジタル化するが、実際はどう使って良いか分からないのが中小零細です。そういう事業所に対する教育から始めて、「介護によってこういうところを目指そう」と言えば、福祉ムーバーみたいな話で、どんな手順で何が必要か、順序が見えてくると思います。「報酬をつけたらからこれをやれ」というやり方では、追い付けないところは淘汰される。それは、事業者の状況を見ていないやり方です。これでは利用者が何を欲しているか分からなくて、ただ上から言われるから何かしないといけない、という有様です。
本当は、チョイソコを初めて導入した愛知県豊明市の職員のように、叩かれても良いからやるんだ、という介護や福祉に熱意のある人が行政にも事業者にも出てきて、みんなでやっていかないといけない。
移動は、関係者が介護業界だけじゃないから、みんなが同じテーブルについて、限られた資源を活用して解決していく、良いモデルケースになればいいと思います。そういう意味で、移動は良い題材だと思います。
DXもAIも事業の発展には必要