コラム

拒否権のパワー [もう一度]-常任理事国と非常任理事国の投票力格差を別の指標でみると…

2022年04月12日

(篠原 拓也) 保険計理

(*) 常任理事国2ヵ国の反対がないと拒否権は発動されない、と発動要件を変更した場合について

以前のコラムでは、現行の議決方式と、拒否権が発動されても他の14ヵ国の賛成で再可決・成立できるよう議決方法を変更した場合について、シャープレイ=シュービック指数の計算の詳細を付録で示した。
 
今回は、常任理事国2ヵ国の反対がないと拒否権は発動されない、と発動要件を変更した場合について、この指数の計算過程をみておこう。
 
まず、常任理事国として、アメリカのパワーについて計算する。
 
アメリカが8番目までに投票するケースでは、投票した時点で議案が成立することはない。また、15番目に投票するケースでは、投票する前に議案は成立している。常任理事国1ヵ国だけでは拒否権は、発動できないためだ。このため、9番目から14番目に投票するケースをみていけばよい。
 
アメリカが9番目に投票して議案が成立するような投票順は、2つのパターンに分けて考える。
 
1つは、他の常任理事国4ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、アメリカの前に投票する8ヵ国のうち非常任理事国は4ヵ国だから、10ヵ国中からの選び方は210通り。アメリカの前に投票する8ヵ国の投票順は、8の階乗(8!) = 40,320通り。アメリカの後に投票する6ヵ国の投票順は、6の階乗(6!) = 720通り。これらを掛け算して、6,096,384,000通りとなる。
 
もう1つは、他の常任理事国3ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、アメリカの前に投票する8ヵ国のうち、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は252通り。これらに、アメリカの前に投票する8ヵ国の投票順 40,320通りと、アメリカの後に投票する6ヵ国の投票順 720通りを掛け算して、29,262,643,200通りとなる。
 
アメリカが10番目に投票して議案が成立するような投票順は、他の常任理事国3ヵ国がすでに投票を終えている場合の数を数えることとなる。他の常任理事国4ヵ国すべてが投票を終えている場合は、アメリカ1ヵ国だけでは拒否権は発動できないため、9番目の国の投票が終わった時点で議案が成立することとなり、考慮しなくてよい。計算すると、4通り、210通り、362,880通り、120通りの4つの数を掛け算して、36,578,304,000通りとなる。
 
アメリカが11番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、120通り、3,628,800通り、24通りの4つの数を掛け算して、41,803,776,000通りとなる。
 
アメリカが12番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、45通り、39,916,800通り、6通りの4つの数を掛け算して、43,110,144,000通りとなる。
 
アメリカが13番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、10通り、479,001,600通り、2通りの4つの数を掛け算して、38,320,128,000通りとなる。
 
アメリカが14番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、1通り、6,227,020,800通り、1通りの4つの数を掛け算して、24,908,083,200通りとなる。
 
こうして算出された、9番目から14番目の投票順の数を、すべて足し算すると、220,079,462,400通りとなる。
 
これを、15ヵ国が投票する投票順の数、15の階乗(15!) = 1,307,674,368,000通りで割り算して、アメリカのパワーは16.830%となる。
 
一方、非常任理事国のパワーはどうか。非常任理事国の場合は、9番目に投票して議案が成立するケースしかありえない。これを2つのパターンに分けて考える。
 
1つは、常任理事国5ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、この非常任理事国の前に投票する8ヵ国のうち、この国以外の非常任理事国は3ヵ国だから、9ヵ国中からの選び方は84通り。この国の前に投票する8ヵ国の投票順は、8の階乗(8!) = 40,320通り。この国の後に投票する6ヵ国の投票順は、6の階乗(6!) = 720通り。これらを掛け算して、2,438,553,600通りとなる。
 
もう1つは、常任理事国4ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、この非常任理事国の前に投票する8ヵ国のうち、常任理事国の選び方は5通り、非常任理事国の選び方は126通り。これらに、この国の前に投票する8ヵ国の投票順 40,320通りと、この国の後に投票する6ヵ国の投票順 720通りを掛け算して、18,289,152,000通りとなる。
 
これら2つの数を足し算すると、20,727,705,600通りとなる。
 
これを、15ヵ国が投票する投票順の数 1,307,674,368,000通りで割り算して、非常任理事国1ヵ国のパワーは1.5851%となる。
 

(**) バンザフ指数での投票力の計算について

バンザフ指数での計算過程について、少し詳しくみておこう。
 
(現行の議決方式)
 
ある常任理事国(たとえばアメリカ)にとって、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成し、かつ、非常任理事国10ヵ国のうち、4ヵ国以上が賛成した提携すべてで、スウィングの機能を持つ。
 
非常任理事国4ヵ国が賛成するケースは、210通り。5ヵ国が賛成するケースは、252通り。6ヵ国が賛成するケースは、210通り。7ヵ国が賛成するケースは、120通り。8ヵ国が賛成するケースは、45通り。9ヵ国が賛成するケースは、10通り。10ヵ国すべてが賛成するケースは、1通り。これらを合計して、848通りとなる。
 
一方、ある非常任理事国にとって、スウィングの機能を持つためには、常任理事国5ヵ国がすべて賛成し、かつ、非常任理事国のうち自分も含めてちょうど4ヵ国が賛成した提携ということになる。これは、自分以外の9つの非常任理事国のうち、ちょうど3ヵ国が賛成するケースなので、84通りとなる。
 
(常任理事国2ヵ国の反対がないと拒否権は発動されない、と拒否権の発動要件を変更した場合)
 
常任理事国として、アメリカのパワーについて計算する。
 
賛成する国の数が8ヵ国以下の場合は勝利提携になりえない。また、賛成する国が15ヵ国、つまり全会一致の場合は、アメリカが賛成から反対に転じても、議案の可決には影響がない。常任理事国1ヵ国だけでは拒否権は、発動できないためだ。このため、賛成する国の数が9ヵ国から14ヵ国のケースをみていけばよい。
 
9ヵ国が賛成する勝利提携は、2つのパターンに分けて考える。
 
1つは、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合。この場合は、非常任理事国は4ヵ国賛成するから、10ヵ国中からの選び方は210通りとなる。
 
もう1つは、他の常任理事国3ヵ国が賛成する場合。この場合は、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は252通り。これらを掛け算して、1,008通りとなる。
 
10ヵ国が賛成する勝利提携では、他の常任理事国3ヵ国が賛成する場合にスウィングの機能を持つ。他の常任理事国4ヵ国すべてが賛成している場合は、アメリカ1ヵ国だけでは拒否権は発動できないため、アメリカがスウィングの機能を持つことはない。計算してみると、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は210通りで、これらを掛け算して、840通りとなる。
 
11ヵ国が賛成する勝利提携では、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は120通りで、これらを掛け算して、480通りとなる。
 
12ヵ国が賛成する勝利提携では、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は45通りで、これらを掛け算して、180通りとなる。
 
13ヵ国が賛成する勝利提携では、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は10通りで、これらを掛け算して、40通りとなる。
 
14ヵ国が賛成する勝利提携では、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は1通りで、これらを掛け算して、4通りとなる。
 
こうして、算出された、提携の数を、すべて足し算すると、2,762通りとなる。
 
一方、ある非常任理事国にとって、スウィングの機能を持つためには、ちょうど9ヵ国が賛成し、そのなかに常任理事国が5ヵ国もしくは4ヵ国入っているケースとなる。
 
常任理事国が5ヵ国すべて入っているケースは、84通り。常任理事国が4ヵ国入っているケースは、常任理事国の選び方5通りと非常任理事国の選び方126通りを掛け算して、630通りとなる。これを合計して、714通りとなる。
 
理事国15ヵ国で合計すると、のべ20,950通り(=5×2,762通り+10×714通り)となる。その結果、常任理事国1ヵ国の投票力は、13.184%(=2,762÷20,950)。非常任理事国1ヵ国の投票力は、3.4081%(=714÷20,950)となる。
 
(ある常任理事国が拒否権を発動しても、他の14ヵ国の賛成により再可決して議案成立できる場合)
 
常任理事国として、アメリカのパワーについて計算する。
 
9ヵ国が賛成する勝利提携は、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合だ。この場合は、非常任理事国は4ヵ国賛成するから、10ヵ国中からの選び方は210通りとなる。
 
10ヵ国が賛成する勝利提携は、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合となる。この場合は、252通りとなる。
 
11ヵ国が賛成する勝利提携は、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合となる。この場合は、210通りとなる。
 
12ヵ国が賛成する勝利提携は、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合となる。この場合は、120通りとなる。
 
13ヵ国が賛成する勝利提携は、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合となる。この場合は、45通りとなる。
 
14ヵ国が賛成する勝利提携は、他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合と、他の常任理事国3ヵ国が賛成する場合の、2つの場合がある。
 
他の常任理事国4ヵ国がすべて賛成する場合は、10通りとなる。
 
他の常任理事国3ヵ国が賛成する場合は、常任理事国の選び方として、4通りとなる。
 
なお、15ヵ国が賛成、つまり全会一致の場合は、アメリカがスウィングの機能を持つことはない。アメリカが賛成から反対に転じても、他の14ヵ国の賛成により再可決して議案成立できるためだ。
 
こうして算出された、提携の数を、すべて足し算すると、851通りとなる。
 
一方、ある非常任理事国にとって、スウィングの機能を持つのは、自分も含めてちょうど9ヵ国が賛成し、そのなかに常任理事国が5ヵ国すべて入っているケース。または、自分も含めてちょうど14ヵ国が賛成し、そのなかに常任理事国が4ヵ国入っているケース、のどちらかとなる。
 
後者は、常任理事国1ヵ国だけが反対する場合には、他の14ヵ国の賛成により再可決して議案成立できるため、非常任理事国もスウィングの機能を持つことを考慮したものだ。
 
前者の自分も含めてちょうど9ヵ国が賛成し、そのなかに常任理事国が5ヵ国すべて入っているケースは、84通り。後者の自分も含めてちょうど14ヵ国が賛成し、そのなかに常任理事国が4ヵ国入っているケースは、5通りとなる。これらを合計して89通りとなる。
 
理事国15ヵ国で合計すると、のべ5,145通り(=5×851通り+10×89通り)となる。その結果、常任理事国1ヵ国の投票力は、16.540%(=851÷5,145)。非常任理事国1ヵ国の投票力は、1.7298%(=89÷5,145)となる。
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