以前のコラムでは、現行の議決方式と、拒否権が発動されても他の14ヵ国の賛成で再可決・成立できるよう議決方法を変更した場合について、シャープレイ=シュービック指数の計算の詳細を付録で示した。
今回は、常任理事国2ヵ国の反対がないと拒否権は発動されない、と発動要件を変更した場合について、この指数の計算過程をみておこう。
まず、常任理事国として、アメリカのパワーについて計算する。
アメリカが8番目までに投票するケースでは、投票した時点で議案が成立することはない。また、15番目に投票するケースでは、投票する前に議案は成立している。常任理事国1ヵ国だけでは拒否権は、発動できないためだ。このため、9番目から14番目に投票するケースをみていけばよい。
アメリカが9番目に投票して議案が成立するような投票順は、2つのパターンに分けて考える。
1つは、他の常任理事国4ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、アメリカの前に投票する8ヵ国のうち非常任理事国は4ヵ国だから、10ヵ国中からの選び方は210通り。アメリカの前に投票する8ヵ国の投票順は、8の階乗(8!) = 40,320通り。アメリカの後に投票する6ヵ国の投票順は、6の階乗(6!) = 720通り。これらを掛け算して、6,096,384,000通りとなる。
もう1つは、他の常任理事国3ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、アメリカの前に投票する8ヵ国のうち、常任理事国の選び方は4通り、非常任理事国の選び方は252通り。これらに、アメリカの前に投票する8ヵ国の投票順 40,320通りと、アメリカの後に投票する6ヵ国の投票順 720通りを掛け算して、29,262,643,200通りとなる。
アメリカが10番目に投票して議案が成立するような投票順は、他の常任理事国3ヵ国がすでに投票を終えている場合の数を数えることとなる。他の常任理事国4ヵ国すべてが投票を終えている場合は、アメリカ1ヵ国だけでは拒否権は発動できないため、9番目の国の投票が終わった時点で議案が成立することとなり、考慮しなくてよい。計算すると、4通り、210通り、362,880通り、120通りの4つの数を掛け算して、36,578,304,000通りとなる。
アメリカが11番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、120通り、3,628,800通り、24通りの4つの数を掛け算して、41,803,776,000通りとなる。
アメリカが12番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、45通り、39,916,800通り、6通りの4つの数を掛け算して、43,110,144,000通りとなる。
アメリカが13番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、10通り、479,001,600通り、2通りの4つの数を掛け算して、38,320,128,000通りとなる。
アメリカが14番目に投票して議案が成立するような投票順は、4通り、1通り、6,227,020,800通り、1通りの4つの数を掛け算して、24,908,083,200通りとなる。
こうして算出された、9番目から14番目の投票順の数を、すべて足し算すると、220,079,462,400通りとなる。
これを、15ヵ国が投票する投票順の数、15の階乗(15!) = 1,307,674,368,000通りで割り算して、アメリカのパワーは16.830%となる。
一方、非常任理事国のパワーはどうか。非常任理事国の場合は、9番目に投票して議案が成立するケースしかありえない。これを2つのパターンに分けて考える。
1つは、常任理事国5ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、この非常任理事国の前に投票する8ヵ国のうち、この国以外の非常任理事国は3ヵ国だから、9ヵ国中からの選び方は84通り。この国の前に投票する8ヵ国の投票順は、8の階乗(8!) = 40,320通り。この国の後に投票する6ヵ国の投票順は、6の階乗(6!) = 720通り。これらを掛け算して、2,438,553,600通りとなる。
もう1つは、常任理事国4ヵ国がすでに投票を終えている場合。この場合は、この非常任理事国の前に投票する8ヵ国のうち、常任理事国の選び方は5通り、非常任理事国の選び方は126通り。これらに、この国の前に投票する8ヵ国の投票順 40,320通りと、この国の後に投票する6ヵ国の投票順 720通りを掛け算して、18,289,152,000通りとなる。
これら2つの数を足し算すると、20,727,705,600通りとなる。
これを、15ヵ国が投票する投票順の数 1,307,674,368,000通りで割り算して、非常任理事国1ヵ国のパワーは1.5851%となる。