1|水平的一方的効果
CMAは水平的一方的効果として、今後のディスプレイ広告市場において広告方法について革新する可能性のあったジフィ社という競争単位が排除されてなくなったことを問題視している。
そこで指針を見るといくつかのポイントがある。
まず(1)当事会社グループの市場シェアが大きい場合に競争に与える影響が大きいとする(指針第4の2(1)ア)。ディスプレイ広告市場におけるジフィ社のシェアは0-5%と大きくないが、Facebook社のシェアは40%ないし50%の間ということである。マーケットの過半を握るプレーヤーの与える影響力は大きく、競争制限効果が生ずるとの判断になりやすい。この点、指針では事業者間の分散度合いを示すHHI(ハーフィンダール指数)
28が企業結合後に2500以下でありかつ当事会社の市場シェアが35%以下の場合は競争制限となるおそれは低いとする。暫定的レポートからはHHIを算定することはできないが、Facebookのシェアについて上記でいう小さい方を採用すると指針でいう35%の閾値を若干超える程度に過ぎず、この点は争う余地が残っているかもしれない。
また、ここで問題となるのは、ディスプレイ広告はGoogleのような検索広告などと区別されるのかである。検索広告も同じ市場に属するのであれば、競争制限効果があるといいにくくなるからである。この点は、先行する事例でも両者別物と判断することが通例であり、暫定的レポートでも同様に、人々の興味に基づいて広告を掲出されるディスプレイ広告は、検索用語に紐づけて広告を掲出する検索広告とは異なるとの判断が示されている
29。
次に、(2)関連市場で競争が活発に行われてきたことにより品質の向上につながっていたと認められる場合において、このような競争が認められなくなる場合は競争に与える影響が大きいとする(指針第4の2(1)イ)。この点について暫定的レポートは、ジフィ社の行ってきた革新的なビジネスモデルの展開、特に「有料連携」がディスプレイ広告市場で革新的であったことを指摘し、そのようなイノベーションについて市場支配力を有するFacebookが停止させたことを問題視している
30。暫定的レポートによると、ジフィ社の有料連携は英国での本格展開前であったが、Facebookによる買収および有料連携の終了により、英国でのディスプレイ広告において動的な革新プロセスが失われたとする。この点、英国で競争が活発化していたのではなく、活動開始予定というだけであり、CMAの判断も微妙な価値判断の上に成立している(=反論が成り立ちやすい)と思われる。
そうであるにもかかわらず、CMAがこのように判断したのはディスプレイ広告市場への参入がネットワーク効果により現状ですら困難になっているという認識がベースにあると思われる。指針でも新規参入者が想定されるときは競争に与える影響は大きくないと考える(指針第4の2(3))。この点、FacebookグループのSNS市場におけるシェアが英国では月間ユーザーベースで72%も占めており、ユーザーが多いことで広告主が増加するネットワーク効果の存在により新規参入が難しく、したがってFacebookに対してけん制する存在はでて来にくい。この点、ジフィ社の存在はそのような状況から競争状況を活発化させる可能性があったとする価値判断があると考えられる。
28 HHIは各事業者のシェアを2乗したものを足して算定する。たとえばシェアが50%、30%、20%の企業があるときは、502+302+202=3800である。
29 前掲注2、P98
30 前掲注2、P145