2020年は、新型コロナウイルス禍もあって、政府は企業の経営上の負担軽減を目的に、企業側が負担する社会保険料を減免した(公務員を除く)。該当するのは社会保険料のうち、年金、失業、労災の3種である。この政策は、当初2019年の米中貿易摩擦を受けた企業の経営悪化を支援するために導入されてたものであるが、新型コロナを経て延長されることになった
5。結果として、2020年の3種の社会保険料の減免総額は1兆5400億元にのぼり、減免総額は前年の当該3種の社会保険料収入の48.3%
6に相当した。
保険料負担の減免は特に保険料率が高い年金に顕著で、都市の会社員を対象とした都市職工年金基金(公務員を除く)の保険料収入は前年比30.4%減の2兆887億元となった
7。2020年は保険料収入が大幅に減少し、財政補填を前年比12.2%増の6,271億元まで増加したものの支出(給付)がまかなえず、単年度収支は6,494億元の赤字となった(図表2)。赤字化の背景には、企業負担の軽減に加えて、企業の経営不振による賃金低下、新型コロナによる離職などの影響も一定程度考えられる。また、支出面においては、政府が年金給付について前年比5%増を提唱した点なども影響したと考えられよう。最終的に、2020年の都市職工年金の積立金残高は前年から減少に転じた(図表3)。
中国社会科学院は2019年4月、企業負担の保険料率(16%)のままで推移した場合、2027年に積立金が減少に転じる(2035年に枯渇)との推算を発表した。これは新型コロナの影響を加味していない状態での推算であるが、積立金は図らずも2027年を待たずして減少に転じることになった。ただし、積立金がこのまま減少し続けるのかについては、企業負担の保険料率や財政補填の動向を注視する必要がある。
一方、年金の企業負担の軽減は、年金制度を運営する地方政府にも大きな影響を与えることになった。特に、高齢化や生産年齢人口の流出が進み、年金積立金の赤字が続いていた東北地域での年金給付が問題となった。公的年金制度の運営にあたっては、中央政府からの財政移転に加えて、地方間で財源の移転を行う措置をとっていたものの、2020年はそれでも給付が賄えない状況が危惧された。そこで、政府は特に問題があるとされる遼寧省、黒龍江省、青海省に対して、別途681億元(遼寧省:356億元、黒竜江省:298億元、青海省:27億元)の拠出を決定した
8。681億元のうち、181億元は中央政府の財政から負担し、500億元は全国社会保障基金から拠出された。2020年は中央政府、地方政府、全国社会保障基金、地方間の財源移転など多くの財政上の補填や財源の移転を活用しながら、年金を給付することができたのだ。