楽天グループに対する独占禁止法被疑事件-公正取引員会の公表資料

2021年12月10日

(松澤 登) 保険会社経営

■要旨

2021年12月6日、公正取引委員会は楽天に対して行ってきた独占禁止法上の懸念に対する審査について、楽天が約束した措置を確認することができれば終了することとした旨を公表した。
 
楽天は近年「共通の送料込みライン」という制度を導入し、3980円以上の購入については送料無料とすることとし、2019年8月からは、この制度に同意する事業者のみと出店契約を締結することとしている。
 
他方、既存の出店者にはこのような契約内容は規定されていない。しかし楽天は様々な不利益が生ずることを営業担当者が出店者に示唆などして、「共通の送料込みライン」への参加を出店者に余儀なくさせていた。これは独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用に該当するおそれのある行為である。
 
楽天は、公取委から指摘された行為を行わないとする措置をとることとし、公取委はその措置が実施されたことを確認して審査を終了することとした。正式な処分である排除措置命令や課徴金納付命令を出さなかったのは、「共通の送料込みライン」そのものが正常な商慣習に対して不当とは言いにくかったことや、排除措置命令を出した場合に必ず出さなければならない義務的な課徴金納付命令を出すことのバランスを考えたといったことが推測される。

■目次

1――はじめに
2――問題の所在
  1|これまでの経緯
  2|問題視された行為
  3|出店者の不利益
3――法律の適用
  1|優越的地位の濫用
  2|優越的地位の認定
  3|正常な商慣習に照らして不当であることとなる濫用行為
  4|まとめ
4――おわりに

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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