(日銀)現状維持
日銀は7月15日~16日に開催した金融政策決定会合において、金融政策の現状維持を決定した。長短金利操作、資産買入れ方針ともに前回から変更なしであった。
同時に公表された展望レポートでは、政策委員の大勢見通し(中央値)として、2021年度の経済成長率をコロナ感染拡大に伴って下方修正する一方、2022年度の成長率を上方修正した。また、エネルギー価格の上振れなどを反映して、2021・22年度の物価上昇率を上方修正している。ただし、見通し期間末である2023年度の物価上昇率は前回同様前年比1.0%に留まり、黒田総裁の任期末(2023年4月)でも2%の物価目標に全く届かないとの見通しが維持されている。景気の総括判断や先行きに関する記述は、概ね前回までの内容が維持されており、大きな変化はみられない。
なお、前回会合にて予告されていた通り、今回の会合では「気候変動対応を支援するための資金供給(以下、気候変動オペ)の骨子素案」が公表された。同素案によれば、対象先は共通担保オペの対象先のうち、気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている金融機関で、バックファイナンスの対象となる投融資は、「グリーンローン/ボンド」、「サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド(気候変動対応に紐づく評価指標が設定されているもの)」、「トランジション・ファイナンスにかかる投融資」が考えられるとされた。条件面では、「貸付利率はゼロ%」、「マクロ加算残高への2倍加算適用」、「付利金利はゼロ%
10」、「貸付期間は原則1年だが、回数制限を設けず借り換え可能(実質的に、長期にわたるバックファイナンスを受けることが可能)」とされ、年内を目途に開始、原則として2030年度まで実施する予定とされている。
併せて、「気候変動に関する日本銀行の取り組み方針」として、金融政策、金融システム、調査研究、国際金融、業務運営・情報発信の5分野からなる包括的な取り組み方針が公表されている。
会合後の総裁記者会見では、気候変動オペに関する質問が相次いだ。黒田総裁は、同オペについて、「対象となる投融資に関する具体的な判断は金融機関に委ねるわけだが、一定の開示を求めることで規律付けを図るという仕組みにしている」と説明し、「(環境オペがグリーンウォッシュ
11を防げなかったという)批判を招くようなものにはならない」との見解を示した。
また、「何がグリーンかグリーンでないかを日本銀行として決めて投融資することは、現時点では適切でない」としたうえで、今回の気候変動オペの枠組みのように「ある程度フレキシブルにしておくことで、国際的に様々なタクソノミーの基準がはっきりと合意されてくれば、それに従った形にもできる」と利点を説明。「今のところは、今回の仕組みが妥当なところではないか」と述べた。
一方、同オペの効果については「今後、十分検証していかなければならない」としたほか、規模感についても「今の時点でこのくらいの規模ということは申し上げられない」と明言を避けた。プラス付利ではなく、ゼロ%付利とした理由については、「現時点で(この条件は)十分なインセンティブになると考えている」と回答した。
日銀のマンデート(使命)と気候変動対応の関係に関しては、「現時点で、物価の安定と金融システムの安定という基本的なマンデートを何か大きく修正するというような議論は、先進国の中央銀行の中ではない」としたうえで、「企業が気候変動のための投資を行う際に、それをよりやりやすくすることによって、気候変動によるマクロ経済の不安定な状況や、そうした問題のリスクを下げることができるということで、マンデートに含まれていると同時に、金融政策としてできる範囲がある」と、その位置付けを説明した。
7月から、長期国債買入れ方針(オペ紙)の公表頻度を3カ月毎へ変更したうえで減額した件については、「日本銀行が意図的に長期金利の変動を拡大させるわけではない」、「あくまでも、明確な変動幅(±0.25%程度)の中で、内外経済・物価情勢などに応じて変動する、いわば市場機能が十分発揮できるようにしたということ」と説明。「国債の買入れ額を今後減らしていくといったことはない」とテーパリング観測をけん制した。