(プラチナ価格は大化けするか?)
先行きに目を転じた場合、今後もプラチナ価格への追い風は続き、上昇に向かう可能性が高いとみている。今後も世界でワクチンの普及が進むことで経済活動が正常化に向かい、世界経済の回復が続くとみられるためだ。これに伴って、自動車販売がさらに持ち直し、主力の自動車向け需要が増加すると予想されるほか、工業向けや宝飾向け需要の増加も見込まれる。WPICの直近の見通しでも、それぞれ需要の増加が見込まれている。
また、今後は水素に絡むプラチナ需要の拡大も期待される。ただし、この実現性については不確実性の高さが否めない。
まずは政治的なリスクだ。今後、主要国において脱炭素の機運が後退するリスクが残る。近年では、一昨年に温暖化対策に否定的なトランプ政権のもと、米国がパリ協定から脱退した件は記憶に新しいが、2011年にはカナダもパリ協定の前の枠組みである「京都議定書」から脱退している。脱炭素は各国企業や家計におけるコスト負担増加に繋がるため、今後も各国での政権交代や世論などの動向によって主要国が脱炭素の取り組みに背を向け、世界的な気運が削がれるリスクが残る。
また、水素に絡むプラチナ需要の主力であるFCVは現在普及が遅れており、次世代車としての存在感はプラチナを殆ど使わないEV(電気自動車)に大きく水を開けられている
3。車両が高価格であることや、水素の補給に必要な水素ステーションの数が少ない
4ことなどがネックとなっており、その解決のためには政治的な後押しが欠かせないが、その成否も不透明だ。
さらに、逆説的だが、プラチナの供給量が限られていることが、FCVの普及を妨げる可能性がある。既述の通り、現状ではFCV1台当たり40グラムのプラチナが必要とされる。1台当たり使用量がこのままであるとの前提で、仮に2019年の自動車世界販売台数(約9000万台)の1/3である3000万台がFCVに置き換わるとすると、必要なプラチナの量は年間38600キロオンスに達する。これは、同年のプラチナ供給量(8200トン)の約5倍にあたる巨大な規模であり、ほぼ実現不可能だ。FCVの普及想定を500万台に引き下げれば、計算上は供給量の8割に収まるが、それでも需要へのインパクトが大きすぎて価格が跳ね上がり、かえってFCVの普及が阻害されかねない。
従って、FCV普及のためには1台当たりのプラチナ使用量の効率化が求められるが、劇的に効率化されたり、高性能な代替材料が開発されたりする場合には、プラチナ需要の拡大に寄与しなくなってしまう。長距離連続走行が求められ、FCVが優位性を持つとされるトラックやバスなどの一部大型車両といった限られた領域でのFCV普及ということであれば実現のハードルは下がるが、その場合にディーゼル車の禁止で失われる需要が補えるのかは定かではない。
以上、プラチナ価格には追い風が吹いており、FCVの普及如何で将来的に価格が大きく上昇する(大化けする)可能性もある。しかしながら、政治的要因や技術的要因によって普及が頓挫してしまえば、現状のディーゼル車向け需要がEVに取って代わられることで価格が下落するリスクもあり、不確実性が高い。
従って、投資に当たっては、「脱炭素→水素需要増→プラチナ需要増」という単純な連想に過度に引きずられることなく、各国政府や関連業界の動向を慎重に見定める必要がありそうだ。
3 報道(聯合ニュース,『20年の世界EV販売4割増 テスラ1位・現代自Gが4位に浮上』2021年3月11日)によれば、2020年の世界販売台数はEV(プラグインハイブリッド車を除く)が202万台に達したのに対し、FCVは8200台に留まる(韓国自動車産業協会調べ)。
4 経済産業省資源エネルギー庁によれば、今年2月末時点における日本国内の水素ステーションの数は162カ所。
2.日銀金融政策(4月)