雇用関連統計21年2月-緊急事態宣言の影響で一段と厳しさを増す飲食、宿泊業

2021年03月30日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.失業率は横ばいも、失業の中身は深刻化

総務省が3月30日に公表した労働力調査によると、21年2月の完全失業率は前月から横ばいの2.9%(QUICK集計・事前予想:3.0%、当社予想も3.0%)となった。労働力人口が前月から横ばいとなる中、就業者数が3万人の増加となり、失業者数は前月から横ばいの203万人(いずれも季節調整値)となった。

失業者の内訳を求職理由別(季節調整値)にみると、雇用契約の満了や事業の都合といった非自発的離職による者の割合が前月から1.5%上昇の32.5%となった。失業率は横ばい圏で推移しているが、失業の中身は深刻化している。
就業者数は前年差▲45万人の減少(1月は同▲50万人減)となった。産業別には、緊急事態宣言再発令の影響で、宿泊・飲食サービスが前年差▲46万人減(1月:同▲39万人減)と減少ペースが加速したほか、製造業も前年差▲24万人減(1月:同▲14万人減)と減少幅が拡大した。一方、卸売・小売業は前年差▲3万人減(1月:同▲22万人減)と減少幅が大きく縮小し、医療・福祉は前年差24万人増(1月:同29万人増)と7ヵ月連続で増加した。

雇用者数(役員を除く)は前年に比べ▲79万人減と11ヵ月連続で減少し、1月の同▲55万人減からは減少幅が拡大した。雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員数は前年差▲107万人減と12ヵ月連続で減少し、1月の同▲91万人減から減少幅が拡大し、正規の職員・従業員数が前年差26万人増(1月:36万人増)と増加幅が縮小した。

2.休業者数が高止まり

緊急事態宣言が発令された20年4月に597万人(前年差420万人増)と過去最多となった休業者数は5月以降に大きく減少し、10月には170万人(前年差12万人増)まで減少したが、緊急事態宣言が再発令された1月は244万人(前年差50万人増)と大幅に増加した後、2月も228万人(前年差32万人増)と高止まりした(いずれも原数値)。

産業別の休業率(休業者/就業者)をみると、Go To トラベルの一時停止、緊急事態宣言再発令の影響から、宿泊業(12月:6.3%→1月:13.0%→2月:13.0%)、飲食店(12月:2.9%→1月:7.6%→2月:8.7%)、娯楽業(12月:4.1%→1月:6.8%→2月:6.3%)が1月に続き高水準となった。

3.有効求人倍率は5ヵ月ぶりに低下

厚生労働省が3月30日に公表した一般職業紹介状況によると、21年2月の有効求人倍率は前月から0.01ポイント低下の1.09倍(QUICK集計・事前予想:1.09倍、当社予想も1.09倍)となった。有効求人数が前月比▲1.5%の減少となり、有効求職者数の減少率(同▲0.3%)を上回った。

有効求人倍率の先行指標である新規求人倍率は前月から▲0.15ポイント低下の1.88倍となった。新規求職申込件数が前月比4.8%の増加となる一方、新規求人数が前月比▲2.8%と2ヵ月連続で減少した。新規求人倍率が2倍を下回るのは4ヵ月ぶりである。
 
経済活動の持ち直しを受けて、雇用情勢は全体としては悪化に歯止めがかかりつつある。しかし、緊急事態宣言の再発令を受けて、宿泊・飲食サービスなどの対面型サービス業は、就業者の減少ペースが加速し、休業者が大幅に増加するなど、悪化ペースがむしろ加速している。緊急事態宣言は解除されたが、飲食店の営業時間短縮要請など経済活動の制限は一定程度残っているため、対面型サービス業とそれ以外の業種の二極化がさらに進む可能性が高い。

また、これまで失業率の上昇を抑制してきた雇用調整助成金の特例措置は5月以降縮小することが予定されており、このことが先行きの失業率の上昇要因となることが予想される。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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