2――利他的行動で幸せになれることを実証した実験3
1│人のためにお金を使うと幸せになる
まず、利他的行動で幸福になる可能性について、因果関係を示した最も有名な研究は
Science誌に掲載されたDunn et al. (2008) によるものだろう。この研究で行われた実験は、46人の参加者を対象として北米地域で行われた。実験の設計は以下の通りである。
(1) 実験が行われる日の朝、参加者は自分の幸福度を評価する。
(2) 参加者はランダムに2つのグループに分けられ、1つのグループの人は5ドルか20ドルを渡され、当日の午後5時までに自分のためにそのお金を使うように伝えられる。 1つのグループの人にも、5ドルか20ドルを渡され、今度は当日の午後5時までに、他の人へのプレゼントか寄付に使うように伝えられる。
(3) 午後5時以降に参加者はもう一度集められ、自分の幸福度を評価する。
この結果、自分のためにお金を使った人よりも、他人のためにお金を使った人の方が、平均的に幸福度が高まったことが確認された。この実験は、参加者がランダムに分けられていることによって、それぞれのグループのもともとの平均的な同質性が担保されているため
4、他人のためにお金を使うことの因果関係でいうところの効果を示していると考えられる。この研究では、使った金額が5ドルでも20ドルでも大きな違いが見られなかったことも興味深い点である。
また、この研究では、この実験に参加した人々とは別の人々に、お金を使った際に感じる幸福度を予測する質問をしている。この幸福度を予測する質問では、人々はより大きな金額を使った方が幸せになれるだろうと予測し、さらに、他の人のために使うよりも、自分のために使った方が幸せになるだろうと予測する傾向が見られた。つまり、実際の実験では、他の人のためにお金を使った方が幸福度が高まることが確認されているが、人々はそれとは異なる予測をしているということである。この結果からは、人々が他の人のためにお金を使うことによって得られる幸福感を正しく予測できていない傾向があることが示唆される。
3 この節は、Dunn et al. (2014)を参考にしている。
4 こうした形で研究者が参加者をランダムに分けて介入を行う実験をランダム化比較試験(RCT)という。
2│実験の設計
調査には、寄付の幸福度への影響を捉えるためのランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial, RCT)を取り入れた。RCTとは、研究参加者を研究者がランダムに複数のグループに分け、それぞれのグループに異なる介入を行うことによって比較し、それぞれの介入の効果を検証するものである。参加者をランダムにいくつかのグループに分けることによって、それぞれのグループのもともとの特徴が同質であることを担保することができるため、因果関係を検証するために有効な方法である。
私たちの行ったRCTは図1のように、3つのステップで構成されている。まず、ステップ1として、介入を行う前の全員の幸福度の値を測定する。この際の幸福度の把握には、「現在、あなたはどの程度幸せですか。「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点とすると、何点くらいになると思いますか。」という11段階の選択式質問を用いた。
そして、ステップ2として、ボーナスポイント(100円相当)が当たるかもしれないくじ引きを行う旨を説明した上で、参加者をランダムに「当選」「その他(寄付)」「落選」の3つのグループに振り分け、それぞれ以下のように表示した(ランダムな振り分けの結果、1,658名の参加者中、534名が「当選」、560名が「その他(寄付)」、564名が「落選」に割り当てられた)。
【当選】
調査にご協力頂き、誠にありがとうございます。あなたが当選したボーナスポイント(100
円相当)は、あなたのポイント口座に、後日付与させて頂きます。
【その他】
調査にご協力頂き、誠にありがとうございます。あなたのご協力に対するボーナスポイ
ント(100円相当)は、あなたが選択いただいた機関に弊社から責任を持って寄付をさせて頂きます。寄付先を1つ選択してください。
(日本赤十字社、日本ユニセフ協会、パラリンピックスポーツ日本代表の活動、令和元年台風19号の被災自治体から選択)
【落選】
調査にご協力頂き、誠にありがとうございます。あなたはボーナスポイント(100円相当)に落選しました。
その後、3ステップ目として、くじの結果が分かった後の幸福度を把握するため、再度、1ステップ目と同じ11段階の幸福度の質問に回答頂いた。
参考文献
Aknin, L.B., Barrington-Leigh, C.P., Dunn, E.W., Helliwell, J.F., Burns, J., Biswas-Diener, R., Kemeza, I., Nyende, P., & Norton, M. I. (2013). Prosocial spending and well-being: Cross-cultural evidence for a psychological universal. Journal of Personality and Social Psychology, 104, 635–652.
Aknin, L.B., Hamlin, J.K., & Dunn, E.W. (2012). Giving leads to happiness in young children. PLoS ONE, 7(6), e39211.
Aknin, L.B., Whillans, A.V., Norton, M.I., & Dunn, E.W. (2019) Happiness and prosocial behavior: An evaluation of the evidence. World Happiness Report 2019, Chapter 4.
Dunn, E.W., Aknin, L.B., & Norton, M. I. (2008). Spending money on others promotes happiness. Science, 319, 1687–1688.
Dunn, E., Aknin, L., & Norton, M. (2014) Prosocial spending and happiness: Using money to benefit others pays off. Current Directions in Psychological Science, 23-41.
Falk, A., & Graeber, T. (2020). Delayed negative effects of prosocial spending on happiness. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117, 201914324. 10.1073/pnas.1914324117.