菅首相は、昨年10月の所信表明演説において、「海外の金融人材を受け入れ、アジア、さらには世界の国際金融センターを目指します。そのための税制、行政サービスの英語対応、在留資格の緩和について早急に検討を進めます。」
1と発言し、国際金融センターを目指すとの方針を改めて示した。
さらに、昨年12月に閣議決定された総合経済対策
2においても、「海外と比肩しうる魅力ある金融資本市場への改革と海外事業者や高度外国人材を呼び込む環境構築を戦略的に進め」ることで、世界に開かれた国際金融センターの実現を目指すことを明記した。
現在、日本においては、東京、大阪、福岡の3都市が国際金融センターを目指す方針を表明している。
このうち、最も早い時期から構想を打ち出していたのは東京だ。80年代からしばしば、アジアの金融ハブとして世界に冠たる国際金融都市を目指す、との戦略を打ち出してきていた。近年では、小池東京都知事を中心とした、「国際金融都市・東京」構想が2017年10月に示されている。現在は、構想策定から約3年を経ての、Brexit、香港の政情不安、新型コロナウイルス等の環境・国際情勢の変化を踏まえた構想の改訂に向けた検討が進められている。
大阪では、11月に吉村大阪府知事が国際金融都市を目指す方向性を表明したことで、本格的な検討がスタートした。大阪が目指すのは、「エッジを利かせた、特定の項目に集中した特徴のある国際金融都市」
3だ。大阪は江戸時代に米の先物取引をはじめた、先物取引(デリバティブ)発祥の地だ。この歴史的経緯を活かし、アジアのデリバティブ拠点を目指す。同時に、2025年の大阪万博を踏まえ、ESG投資も推進する方針だ。アメリカという大国にありながら、世界最大のデリバティブ取引所という点でニューヨークとは異なる機能を有するシカゴのような、特徴ある国際金融センターを目指すと見られる。
福岡は、アジアに近いという地理的な優位性を活かしたい考えだ。外資系金融機関等の誘致を目指す産官学連携組織「TEAM FUKUOKA」を立ち上げ、一丸となって取り組む方針だ。
これらの各都市の方向性を表にまとめると(図表6)のようになる。
菅首相は、「東京の発展を期待するが、他の地域でも金融機能を高めることができる環境をつくりたい」と発言している。政府はこれらの3都市をまずは競わせる方針だ。
日本が国際金融センターを目指すことの効果としては、(1)雇用・産業の創出や経済力向上の実現に資する、(2)リスク分散を通し、アジアひいては世界の金融市場の災害リスク等に対する強靭性を高める、等が挙げられている。
4また、各都市は国際金融センターとなることによる地域経済の成長や資産運用・形成への好影響を期待する。