では、中小規模を中心とした保険会社にはどのような動きがあるのであろうか。健康保険分野でみると、自社での保険商品の開発や販売もあるが、ヘルスケアに関するサービスの提供やそれによって集まった健康データの分析を行うヘルステック企業との連携が進んでるのが1つの特徴であろう。
例えば外資系生保のAIAは、テンセント・グループが出資するオンライン医療サービス大手の「微医(WeDoctor)」、同じくテンセント系の鎂信健康(MediTrust/2020年9月、テンセント系の「微保(WeSure)」の前総経理の謝邦烈氏が総裁に着任)と提携し、乳癌保険「守護麗人医療保険」を開発・販売している。
中国では、乳癌が女性の悪性腫瘍の罹患率で1位、罹患率の増加は世界平均の2倍とされている
4。また、罹患の発生年齢は欧米より10歳若く、5年生存率も83.2%と米国の90%と比較しても低い状態だ。ちょうどテンセントなどが提供するSNSをよく利用する子育て世代がそれに該当するといえよう。保険会社とヘルステック企業の連携には、こういった性別や年齢、保障対象をある程度しぼったテーラーメイド型の保険の開発が進んでいる。
保険会社(AIA)としては、他社との商品の差別化、顧客体験(UX)の向上につなげることができる。一方、微医(WeDoctor)は、自社のプラットフォームが持つ医療・健康データの分析を通じて保険商品の開発に貢献し、顧客が乳癌の診断やその疑いの診断があった場合、専門医の手配、セカンドオピニオンの紹介、入院手配、メンタルケアなど一連のサービス提供も可能だ。
「守護麗人医療保険」では、鎂信健康は癌治療薬などの治療薬提供企業として、乳癌治療で使用する分子標的治療薬5種の提供を行う。中国において、5種のうち2種類は保険収載されており、公的医療保険が適用される。しかし、先進的な残りの3種類の治療薬については収載されておらず、100%自己負担となっているとしている。治療に際してはこの自己負担が重いことから、当該保険では最長3年、最高200万元を限度に5種を100%給付する内容となっている。
このように、健康保険分野においては、保険会社とヘルステック企業が連携することで、よりニッチな層に向けた商品開発を実現している。更に、既存の保険商品が持つ現金給付の機能にとどまらず、疾病が発生した場合の病院や医師の手配、治療薬の手配や提供、メンタルケアといった治療に係る一連のサービスを完結させている。微医は乳癌に関する罹患前の予防、罹患後の服薬、リハビリに関する専門サービスも提供している。つまり、既存の保険商品が持つ現金給付の機能に、予防やその先の回復までをサポートするサービスや現物給付も可能としている。健康保険加入から健康回復まで完結する提供体制は、保険最大手が形成する金融エコシステム、アリババや京東などのITプラットフォーマーによる消費中心のエコシステムとは異なり、ヘルスケアに特化した新たな経済圏を形成する可能性もある。
また、業種を跨いだ提携は人材面でも見られ、2020年4月にはそれまでAIA中国地区の責任者であった祭強氏が微医にCFOとして加入するなど(ただし、2020年12月には退任)、保険―ヘルステック業界間での人材面での取り込みも活発になっている。
4 「女性朋友福音来襲:友邦守護麗人医療保険上市!譲乳腺癌遠離你的美好生活」、捜狐網、2019年6月26日(2021年3月9日アクセス)
4――「国民の健康向上」を命題とした…