地域別の消費動向を包括的に把握することができる統計は少ない。都道府県別の個人消費の全体像を捉えることができるのは内閣府の「県民経済計算」だが、同統計の計数は基本的に年ベースであり、最新値は2017年度となっている。一方、内閣府は2012年4月から「地域別消費総合指数」を試算しており、都道府県別の消費指数(原数値、季節調整値)が月次ベースで提供されている。
そこで、「県民経済計算」と「地域別消費総合指数」を用いることにより、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、都道府県別の個人消費がどれだけ落ち込んだかを試算した。
試算の具体的な手順は以下のとおりである。
(1) 県民経済計算における全県計の2017年度の個人消費(持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出、以下同じ)に対する国民経済計算における2019年の個人消費の比率を用いて、都道府県別の個人消費の2019年の値を求める。
(2) 2020年2月以降の都道府県別消費指数(季節調整値)と2020年1月との乖離率を新型コロナウイルス感染拡大による個人消費の減少率とし、これに2019年の都道府県別個人消費を掛け合わせ、12で割ることにより月次ベースの個人消費の減少額を求める。
(3) 緊急事態宣言が発令された2020年4月、5月については、2020年3月からの減少率を緊急事態宣言による影響として取り出す。
(4) 「地域別消費総合指数」の最新値は2020年9月なので、10~12月については当研究所が作成している全国ベースの月次GDP(月次民間消費)を基に全都道府県の指数を先延ばしする。
このようにして求めた2020年2月から12月までの都道府県別個人消費の減少額は図表1のとおりである。全国の個人消費減少額は▲19.3兆円、年間の個人消費に対する割合は▲7.9%となった。このうち、2020年4、5月が▲6.5兆円と全体の約3分の1を占めており、このうち▲3.6兆円が緊急事態宣言の影響によるものと考えられる。
都道府県別では、個人消費の減少額が最も大きいのは東京都の▲4.1兆円となった。東京都はもともと個人消費の規模が大きい(全国に占める割合は14%)ため、減少額が大きくなることは当然だが、年間の個人消費額に対する割合でみても▲11.7%と全国で最も高くなっている。
東京都は、緊急事態宣言の期間が最も長かったことに加え、飲食店の営業時間短縮、東京アラートの発動など、独自の自粛要請を多く行った。このことが外食、旅行、娯楽などの対面型サービス消費を中心に、東京都の消費の落ち込みの大きさにつながっていると考えられる。
緊急事態宣言の期間が東京都と同じ長さだった神奈川県、埼玉県、千葉県についてみると、個人消費の減少割合は神奈川県が▲8.5%(▲1.6兆円)、埼玉県が▲8.0%(▲1.1兆円)、千葉県が▲7.2%(▲0.9兆円)となっており、全国平均と大きな差はみられない。
一方、個人消費の減少割合が小さいのは、徳島県(▲0.4%)、香川県(▲1.7%)、高知県(▲1.7%)、愛媛県(▲2.4%)の四国地方で、これら4県では、個人消費の水準が2020年9月時点で新型コロナウイルス感染拡大前の2020年1月を上回っている[図表2]。