新型コロナ ワクチンの優先順位-誰からどの順番で接種すべきか?

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.285]

2020年12月08日

(篠原 拓也) 保険計理

新型コロナウイルスは、終息のめどが立たない。感染拡大や重症化を防止するためには、ワクチンの投与がカギとなる。
 
日本では、全国民分の供給を受けられるよう、政府が医薬品メーカーと合意している。ただ、供給が始まっても、いきなり全員分が用意できるとは限らない。ワクチン接種の優先順位が問題となる。
 
厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、この問題について議論を進めてきた。その内容を受けて、政府は、9月25日に中間とりまとめの報告書を公表している。その内容をみてみよう。

優先順位の上位に位置づけられる人

(1)新型コロナ患者やその疑いのある患者に直接医療を提供する医療従事者等(患者の搬送に携わる救急隊員、積極的な疫学調査等に携わる保健師等を含む)と、高齢者および基礎疾患を有する人を接種順位の上位に位置づけ。(※具体的な範囲等は、今後検討)

(2)高齢者施設や障がい者施設等で従事する人の接種順位について、業務やワクチンの特性等を踏まえて検討。

(3)さらに、妊婦の接種順位について、国内外の科学的知見等を踏まえて検討。

(1)で、医療従事者が上位に位置づけられているのは当然だろう。また、高齢者や基礎疾患を有する人も上位とされており、重症者が多数出た場合の医療資源の逼迫を防ごうとする意図がみられる。
 
(2)で、高齢者施設等で従事する人の順位について、業務やワクチンの特性等を踏まえて検討する点も理解できる。高齢者等への感染を防ぐ狙いがあるからだ。
 
(3)の妊婦については、胎児への影響も研究員の眼あるため科学的知見等を踏まえて検討していくことが求められよう。
 
なお、基礎疾患がなく医療従事者等でもない高齢者以外の成人・若年者については、この報告書では触れられていない。

新型インフルでも議論された優先順位

ワクチン接種の優先順位問題は、2009年に発生した新型インフルエンザの感染拡大時にも議論された。政府は、2013年に、新型インフルエンザ等対策政府行動計画を公表し、優先順位をまとめている。
 
まず、ワクチン接種を「特定接種」と「住民接種」の2つに分ける。そして、基本的には、特定接種は住民接種よりも先に開始する。ただし、特定接種がすべて終わらなければ住民接種が開始できないというものではないとしている。
 
特定接種は、「医療の提供の業務」または「国民生活・国民経済の安定に寄与する業務」に従事する人、対策の実施に携わる国家公務員、地方公務員が対象。
 
このうち、医療の提供については、新型インフルエンザの患者を診る医師などが該当する。国民生活・国民経済の安定は、介護・福祉、公共機関、社会インフラなどの業種の従事者が当てはまる。
 
特定接種対象者以外は、住民接種の対象となり、表1の4つの群に分類される。
 
この4つの群について、表2のとおり優先順位が設定されている。重症化・死亡を可能な限り抑えるのか、それとも、わが国の将来を守るのか、重点の置き方次第で優先順位が変わることがわかる。特に、成人・若年者は、4番目が最も多い。ワクチン投与は後回しになりがちだ。
もちろん、この新型インフルエンザの計画が、新型コロナにそのまま当てはまるわけではない。中間とりまとめの報告書では、特定接種の枠組みはとらず、住民への接種を優先する考えに立つとされている。ただ、高齢者以外の成人や若年者は、優先されないとみるべきだろう。

飲食店店員の優先も一つの手かも

それでは、成人・若年者は、単に一律に後回しでよいだろうか?重症化を防ぐ観点、感染拡大を防ぐ観点の検討が必要となる。
 
重症化を防ぐ観点からは、高齢者等と一緒に暮らす人や、高齢者施設等で従事する人。高齢者等と接するカルチャーセンターの職員、シニア向けツアーの添乗員などを優先。一方、感染拡大を防ぐ観点からは、飲食店店員やセールスパーソンなどを優先することとなろう。
 
いずれにせよ、ワクチン流通の時期や規模が検討の前提となる。手洗い、マスク、3密の回避が引き続き大事といえそうだ。
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